2016年02月29日

勝手にKDP本レビュー★26丸木戸サキ「ねぇ、その出版楽しいの?」

なんやかんやで丸木戸サキさんの「ねぇ、その出版楽しいの?」を読了しました。
ぶっちゃけ、小説以外はあんまり読まないんですよね。エッセイ的なものとしては甲斐しげるさんの「電子書籍作家が読む本」以来じゃないかな。
基本、この手の本は作者の人間性で選ぶことが多いです。甲斐さんも、普段のツイートなんかで面白そうな予感がして、無料キャンペーンで読んで、本当に面白かったんですよね。今でも密かに繰り返して読んでいるという。

丸木戸さんについては、小説も読んでいて、すごく上手いと思ってたんですよ。外連味のない素直でハンサムな読み口が魅力で、確か「四月馬鹿」をKDP文学賞でもピックアップさせてもらいました。その上で、ブログの文章も読んでいたので、そういう意味では安心のチョイスだったし、結果も裏切らないものだったように思います。
なんていうか、丸木戸さんの地の文って、すごく理知的なんですが、時々、ふっと一気に距離を詰めてくる瞬間があるんですよ。その感覚が随所に生きていて、すごく読み心地が良い本でした。
内容については、KDPについてのエッセイなんですが、具体的な体験談は控えめで、丸木戸さん自身の考え方が出版から販促に至るまで書いてあるイメージです。とくにイラストや挿絵もなく、すごく整理されていて分かりやすい。
個人的には、もっと体験談を面白おかしく添えたりしてエンタメ方面というか作者のカラー努めでも良かった気もします。こういう本ってファンアイテム的な側面もあるし。
肝心の内容については、憶測の断言を避け、全方面に配慮しつつKDPの魅力をPRしていて良い感じ。とくに私個人としても共感できる部分が多数ありました。
とくに「KDPサマソニ説」。私が他のセルフパブリッシングに展開しない理由もそれ。インディーズとかに括られるのは面白くなくて、普通に何食わぬ顔でメジャータイトルに紛れて勝負できるのが楽しいのです。KDPは意外にフェアなんです。かつてケータイ小説やってたころに感じていたある種のやるせなさや疎外感はないんです。遊び場としての懐の深さ、厳しさをサマソニに例えるのはグッときました。



個人的にこれからKDP始める人必携みたいなもんじゃないし、強要するようなものでもない。ちょっと一服というか、そういうスタンスで楽しむ本なんだろうと思いました。



ちなみに昆虫好きとして、そのうち「蝶従偽蛾」は読みたいっす。
ラベル:Kindle KDP
posted by ヤマダマコト at 20:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月25日

勝手にKDP本レビュー★25市川イチ「肖像」

インフルエンザでダウンしていたヤマダです。
マジでポアするとこでした。おかげさまで自作は大幅に遅れてます。
それはそうとして市川イチさんの「肖像」をようやく読了しました。
なんか色々なところから「いいから読め」という無言の圧力もあり。

文章がすごく綺麗だなーと思いました。序盤は情緒的になり過ぎた部分もありましたが、文節の数やリズム、韻の重ね方とか「分かってるね!」感が半端ないというか心地よい文章でした。ベタベタな感嘆符の使い方も、この世界観で途端に光り輝く感じ。

ある画家のもとで住み込みで働くことになった浮浪少女ルチアーナの物語なんですが、この画家や弟子たちとの人間関係を通した心の変化、少女が女性になる過程を描く感じです。
うまいと思ったのは「初潮」の使い方。初潮にせよ妊娠にせよ、女性には申し訳ないけど物語作りではすごく便利なんですよね。鉄板ネタ。
んで、浮浪児時代に身体を売ろうとしていた少女が、初潮や恋を経験していくギャップがすごく面白い。

個人的には「絵」について、もうちょっと掘り下げてよかった気もします。ルチアーナの絵もそうだし、師もそう。絵を通してもっとエピソードを重ねれば、ルチアーナの心理に感情移入しやすくなるのかなと。なぜ恋に至るのか、という「経緯」をもっと踏まえた方が説得力があったし、その反動も重みが増すと思うんです。
そんなのお構い無しに、市川さんは、圧倒的な筆力による感情表現で押し切ろうとするわけですが、最後の最後、後日談でどうしても力尽きた感が拭えないんですよね。
人によっては「最後まで語らない方が良かった」という人がいるのは、その辺によるものじゃないかと思いました。
でも回想録形式で進めた以上は、きちっと切らないといけないわけで、途中で止めるわけにもいかないでしょうし。だから、避けられない場面だと個人的には思うんです。
これが生粋のエンタメなら小細工で誤魔化せると思うんですが、そこは、しゃーないですよね。結果的にはこれがベターな構成なんだと思いました。多分、作風的には演出の強化っていうのは選択肢に入れてないと思うし。



このままでも凄く上質な作品なんですけど、もっと尺を使えば、ベラボーな傑作になる可能性があるんじゃないかなと。
ラベル:KDP Kindle 純文学
posted by ヤマダマコト at 18:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月15日

勝手にKDP本レビュー★24「円盤対猫」折羽ル子

さて、今日は折羽ル子さんの「円盤対猫」
無料キャンペーンで落としたブツでございます。
折羽さんといえば、「そらとぶた」が我が家の長男(まもなく7歳)に大ウケ。その後の図画工作の作品に深刻な影響を与えることになった傑作でしたが、今回は小説。
内容は表題作を含む短編やショートショート連作の詰まったものです。
全体を通して、すげー勢いですわ。周囲を蹴散らしながら爆走する暴走トラックのようなインパクト。とにかく語り口が面白い。落語的な趣きがある。多少読みにくい点もありますが、これが味なんでしょうね。このライブ感こそが真骨頂。

1番気に入ったのは、「終末の王国」。これは何気に凄く好き。
伝染病でみんながゾンビになった人類滅亡前夜、生き残った人々が食料水を巡って殺し合いをする中、あるおっさんが人生の最後を好きなオモチャに囲まれて過ごそうとオモチャ屋さんに向かう物語。
そこには、同じようなことを考えたオタクがたくさんいて、クレイジーな緩い繋がりのユートピアができているという。
まさに3・11のあとに日本人が背負った重い課題に対する1つの答えといえなくもない、気がする。ちょっとだけ。
それまでの人生が地獄でしかなかったダメなおっさんが同好の士と戯れてゆくわけですが、まず、その発想がスゲー。この展開で気にならないわけがない。かなりエグく不条理な展開も、この軽妙な語り口でなんとなく読まされてしまう。そして、中盤以降のダイナミックな展開も粗挽きですがイカす。この展開はなぜか飴村行の「粘膜人間」を思い出しました。
これ、一歩間違えて、饒舌で上品な文章で書き直したら純文学系傑作になりそうだけど、そんなことしたらつまらなくなること必至。サンマは目黒に限るじゃないけど、この作風だからこその魅力じゃないかな、と。改行はもう少し多くてもいいかもですけど。
これだけでも読む価値はあると思う。
短編の場合は、やっぱりインパクトのある舞台とダイナミックな展開が大事なんだと改めて再確認させられました。

あとは表題作の「円盤対猫」。どことなくウルトラセブンとかの円谷系の香りがする本作。勝手に脳内で石坂浩二ナレーションで読んでました。大丈夫、こっちは脳内なんでコメントがカットされるようなことはございません。
まさにタイトルの通りの内容で珍妙な別次元の高度な文明を持つ種族と猫が戦うんですが、これも、宇宙猫はじめとする語りの勢いで押し切る力技が光ります。
猫小説という意味では牛野小雪さんの「真論君家の猫」という王道作品がありますが、ここまでシュールな世界観ながら、たまに共通する部分が感じられたのが印象的でした。



最後に、ケモノノファイトは漫画や絵本ならもっと面白いだろうと思いました。小説だと、それぞれオチの手前にちょっと溜めがあった方がウケる気がしないでもない。
ラベル:Kindle KDP SF
posted by ヤマダマコト at 13:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする