2017年07月11日

ヤマダ氏、熊谷達也「邂逅の森」読む

つーわけで、熊谷達也さんの「邂逅の森」読了。以前に、出張の移動用にハードカバーを買ったんですが途中まで読んで上野の ビジネスホテルの放置してしまったんですね。
で、今回、kindle版を改めて買い直して読了。
これは売れたし、読んだ人が多いでしょうけど、いわゆるマタギ小説。
大正から昭和初期の頃の東北を舞台に、若き阿仁マタギの松橋富治の半生を描く一大エンターテイメント。
方言ばりばりの物凄く重厚なストーリーではあるんですが、文章は決して重くなくて、読みやすいんですよね。熊谷さんといえばデビュー作の「ウエンカムイの爪」と2作目の「漂泊の牙」は読んだんですが、基本的に系統としてはその延長線上にある作品だと思いました。
「マタギ」というテーマに対して、民俗学的な側面より、ネイチャー系な切り口で描きにいっている感じというか、ウエンカムイのアイヌも漂泊のサンカもそんな感じで、良くも悪くも万人向けのエンターテイメントだと思います。マタギだからと敬遠しなくていい物語。
富治という若いマタギが、集落の権力者の箱入り娘、文枝を妊娠させてしまい、阿仁マタギとしての居場所を奪われ、鉱夫として生きつつ、ある事件をきっかけに再びマタギにカムバックする展開で、すごくシンプルなストーリーラインなんですけど文枝とイクという対照的な人生を送る2人のヒロインを中心に富治の取引相手となる喜三郎、弟分の小太郎とどのキャラも本当に魅力的で、狩猟以外の人間ドラマもめっさ濃いし面白い。小太郎は作中だとサンカの子どもっぽい雰囲気があるのが気になりました。そういう裏設定ありそう。
大正から昭和初期の山村が中心だけあって夜這いやら青姦やら猥雑なネタがたくさんあるのもそれらしくて良い感じなんですが、いくつかはやり過ぎと感じるエピソードがあったのが気になりました。
それ以外にも肘折温泉のこけしのくだりとかもベタすぎないか、と。よく考えたら漂泊の牙もそんな感じだったし、この作者の趣味なんでしょうけど。
物語の後半、ちょうど満州事変が発生し、日本をはじめ世界が血と鉄と火薬の時代に差しかかろうとした頃、アオジシ(カモシカ)が天然記念物になり、山から動物たちが減り阿仁マタギも里に降りるなど、徐々に「山の神話」が消えさろうかという状況に対して、壮年の富治が自問自答しながら猟に赴くラストはむちゃくちゃカッコいい。最終盤のヤツとの対峙は凄まじかった。
直木賞とったときの選評と読んでいる間の印象が全然違ったんですが、最後に、「神殺しの英雄譚」だなと。本当にすごい小説だと思います。



今回はやがて書くであろう熊ホラーの予習的な意味合いもあったんですが、全然ベクトルが違うんで安心しました。面白かった。
ラベル:マタギ 東北
posted by ヤマダマコト at 21:03| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする