2020年04月20日

KDP本、鈴木千恵子「私と言う女」を読む

私が以前にケータイ小説をやっていたときは、まさに「恋空」の全盛期で、中高生の女の子たちがどこまでノンフィクションなのか怪しい「実話系」のヤンキーとの恋とか妊娠中絶を語った小説が熱狂的な人気になっていた文学評論家や社会学者、サブカル系の識者が色々言っていた時代でした。
ただ、そうした女子が自給自足していく「実話系」の陰では、ひっそりとガチのミステリを公開したり公募狙いの人たちが自作を発表しながらコミュニティを形成していたりするんですよ。あくまでひっそり。私もその辺からスタートした感じです。きっと、今の「なろう」とか「カクヨム」もそんな感じだろうと思う。ユーザーが増えればメインストリームとは別に、こう、色んな人が入ってくる。必ずしも大ヒットとはいかなくても、それでも色んなものが出てくるのは、きっとサービスの認知度が向上した証のひとつなんだろうと思います。
んで、KDP小説のメインストリームって言われてもピンとこないですよね。だいたい商業と一緒に並ぶのでマーケットから傾向が見えてこない。せいぜい、「BLはKDP本が元気だな」とかそんくらいのもの。そういう意味では、アマチュアが小説を発表する場としては異端なんですよね。角川さんのブックウォーカーさんだってインディーズというカテゴリがある。そこがKDPの難しさであり魅力だったりするんですけども。



とはいえ、それでも「KDPも裾野が広がってきたのかな」と思ったのがこの作品。鈴木千恵子さんの「私と言う女〜遠い記憶〜」。
フィクションと銘打ちつつ、半自伝的な回想録形式で昭和33年生まれの女性の半生を描く物語。ていうか、名前や固有名詞以外はノンフィクションっぽい気がする。ケータイ小説の「実話系」とは全然違う。
ちなみに、この作品を知ったきっかけは鈴木さんの方からTwitterでフォローしてくださったこと。割とファンの方にフォローしていただく事は多くて、きっと自作を読んでくださったのかな、と思ったんですよ。昭和33年生まれならうちの母親世代ですし、ツイートもごく普通の主婦の方っぽいし。そうしたら、KDPで小説的なものを出してるわけですよ。めっさ気になるじゃないですか。

本を開いて驚いたのが横書き。なんか久しぶりに見た気がする。内容については、平易な文章でわかりやすく、でも丁寧に書かれていてなかなか「読ませる」内容。子どもの時代のいじめや家族の都合での転居、好きだってテレビスターへの思いや結婚など、すごくストレートに変に脚色することなく穏やかに描かれていて、本人にインタビューしているみたいな不思議な気持ちになる。個人的には芸能人などは実名の方が良かったと思うけれど。そっちの方が同世代の共感を呼べるでしょうし。
ただ、いわゆる高度成長期から今日まで生きてきた女性の、しかも偉人や有名人でもない一般人の人生というのは面白い。人の人生って、それだけでもエンタメなんだな、と実感させられます。特に時々語られる人生観はすごく興味深いです。そんで、旦那さんの持病に痛風があるのがね、おおう、と。
時に軽妙に、でも時にずっしりとくる感じで、特に親への様々な思いは印象的でした。

にしても、こういう作品って昔は地域の文芸サークルの同人誌や市が定期刊行するような文芸誌しか発表の場はなかったように思うんですよ。いわゆる作家志望やビジネス目的ではなく、趣味的に小説やエッセイ、俳句なんかをカルチャーセンターとかで習ったけど発表する人たちは昔からいたんですが、これまでは地元の印刷所などで安い同人誌を作って知り合いに配るしか発表の手立てがなかった。コストがかかるからだいたいグループで。
本来であれば、そういう人たちこそKDPはじめセルパブを活用すべきだと思うんですよね。低コストでより多くの人に読んでもらえ売り上げもあるわけですし。
その意味でも、こういった渋い作品がどんどん増えてくれば良いなあ、と思います。全国の昔から活動されているベテラン同人作家のみなさんのニーズに応えられると思うんですよ、セルパブって。
posted by ヤマダマコト at 12:40| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする