2015年01月20日

テロリストのパラソル ★印象に残る新人賞受賞作その1

私はホットドッグが好きだったりします。
関西風のカレー粉で炒めたキャベツを一緒に挟んだものがベストだが、普通のものでも構わない感じ。
ただ、新潟ではなかなか美味しいホットドッグにありつくのは難しくて、ナポリタンで有名な老舗の喫茶店などでも赤ウインナーを縦に割ったものを挟んだような微妙なものが出てきて、オイオイ、とさせられることも多かったり。

image.jpg
そして、ホットドッグで連想するものといえば、ドジャース時代の野茂英雄を応援する親子が頬張る姿と、この故・藤原伊織のデビュー作「テロリストのパラソル」。
1995年の江戸川乱歩賞受賞作にして翌年の直木賞受賞作のハードボイルドミステリーであります。プロ野球でいえば新人王と沢村賞を同時受賞した上原浩治的な存在といえるかもしれません。

物語の主人公は新宿で夜は小さなバーを開く中年のバーテンダー島村圭介。昼はホームレスと見まごう格好で公園で酒を飲むアルコール中毒。
実は彼は東大在学中に学生運動に参加。結果、本名を隠して暮らしており、彼を酒に溺れさせている背景にもなっています。そんな彼がいつものように酒を飲んでいると公園で爆発。多くの死傷者が発生。その爆発の中でかつての学生運動時代の同志で現在も指名手配されている2人の死亡が確認され、しかも島村の指紋が検出されたことから事件に巻き込まれていく、という内容。
この物語が島村の一人称で語られていきます。
まず、この作品で特筆すべきは文体。決して硬くない、表現を抑えたハンサムな文章で、短文の繰り返しでリズミカルに進んでいくのですが、とにかくウメーという感じ。そして、セリフも洒落ていて、それぞれ短いんですが印象に残るんです。昨今のテレビドラマの脚本家は見習うべき。映像があるのになにやってんですか、と言いたくなるほど。その辺りが学生運動時代の若者の老いた姿と重なるんです。影を抱えたインテリ中年の雰囲気というか。
全共闘の時代と平成をつなぐその哀愁漂うハードボイルドさが最大の魅力であり、さらにそこに花を添えるのが魅力的で個性的な登場人物。
主人公の知的アル中もそうですがタッグを組む元警官のインテリヤクザの浅井など一癖の二癖もあるヤツばかり。目新しく破綻のないプロットを作るだけでもしんどいミステリーの新人賞で、ここまで世界観を作り込む作品は今でも滅多に出てこないんじゃないでしょうか。ミステリ系新人賞は詳しくないから断言できないですが。ちなみに劇中でホットドッグを食うのは、このインテリヤクザ浅井とその舎弟でセリフもカッコイイ。そのやりとりがコレ。

パンを手にとって二つに割り、バターを引いた。ソーセージに包丁で刻みを入れる。それからキャベツを切り始めた。
「なんだ、注文があってからキャベツを切るのかよ」
「そうです」
「面倒じゃねぇか」
私は顔を上げた。
「面倒じゃないことをたくさんやるか、面倒なことをひとつしかやらないか。どちらかを選べと言われたら、 私は後を選ぶタイプでね」


このあとホットドッグを作るシーンが続きます。もちろん関西風。ちなみに、主人公のバーの唯一の食事メニューという。
もうカッコイイのなんの。ほかにも大人になったら言ってみたい、聞いてみたいセリフ満載。

もちろん、この作品にも難点はいくつかあって、割と犯人のトリックが無茶だったり、安っぽいサスペンスドラマみたいに最後に犯人が演説するあっけない展開で、終盤がやや雑な感じがしたり、また個性的なキャラクターも、この物語を成立させるための無茶な設定が藤原伊織の天才的な文章力で奇跡的に輝いた感もあります。これ以後の作品を読むとその感が強かった。でも、それらをさしひいても面白い。むしろテロが96年より身近で、右翼左翼ときな臭い言葉を目にするような今こそ楽しめる内容だと思います。

書評一発目はこんな感じで。私はリアルタイムで高校生時代に読んでハードボイルドに憧れました。ちなみに人気作でドラマ化されましたがあまり振り返りたくない思い出だったり。
今回取り上げたのは今朝、デイリーヤマザキのホットドッグを食べたから、というw
せっかくなんで、新人賞を取った作品をしばらく取り上げていきたいです。


角川の文庫はあっさりジャケ
posted by ヤマダマコト at 08:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック