2015年01月21日

夜市★印象に残る新人賞受賞作その2

第二回目は日本ホラー小説大賞の「夜市」
恒川光太郎のデビュー作でもあります。
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モダンホラーの旗手、スティーブン・キングをしのぐみたいなキャッチフレーズをどこかで見たけれど、世界観はともかく文体や表現は逆ベクトルじゃん、という感じの作家さんであります。

日本ホラー小説大賞といえばパラサイトイブの瀬名秀明、黒い家の貴志祐介と黎明期から名作家を輩出。空気を読まず大賞該当者なしを連発しながらも、受賞者の10年後生存率が高い権威ある新人賞でした、かつては。
ただ、昨今はホラーの人気低迷のせいか選考委員が次々と変わり新体制となり、ライトノベルを意識した作品が目立つような印象だったりします。
本来なら瀬名、貴志の2作を取り上げるべきなのでしょうが、あまりにも有名過ぎて語ることがあまりないのと、この夜市こそが旧体制におけるホラ大の最後のあだ花だったという印象が強いので取り上げたかった次第です。

この作品は短編と中編の間、100枚強の作品2作収録でどちらも甲乙付け難いですが、まずは表題作で受賞作の夜市から。
大学生の2人が異世界にある、不思議な商品を取り扱う夜市に出掛けるという話で、冒頭から「学校蝙蝠」なる造語が登場するファンタジックな世界観で、個人的には初期のスピッツの楽曲のような世界観だと思いました。
作品全体としては、余韻を重視した趣のある幻想作品。ただ、そのプロットはかなり大胆で画期的とは言いませんが、面白い構成で作風とあいまって古典的な深く美しい物語になっています。
インパクトがあるのは、やはり文体と表現。
シンプルで読みやすく、そして的確で冷静な語り口は高い知性を感じさせます。
よく恒川評で「水墨画のような」という表現が出されますが、個人的にそれは同時収録の「風の古道」の印象であって、むしろ夜市では童話的な印象を受けました。
この表現を成り立たせているのは、むしろ箱磔、植物のような刀といった日本を含む普遍的なアジアの民話や童話を下敷きにしている側面が強い気がします。読者の側に刷り込まれたものを巧みに利用した表現といえるのではないかな。個人的には描写が甘い部分も感じるけど、この雰囲気に押し切られてしまう感じ。漫画や古典芸能にも通ずる部分でもあります。
ただ、そういったものに興味のない人が読むと微妙な評価になってしまうかもしれません。海外でも翻訳されているようですが、どう評価されているのか気になりますね。
また、エンタメ文学では珍しいですが純文学では似た文体は結構いるんですよね。
加えて、デスノートとかバトロワみたいなゲーム的なギミックをうまく取り込んでいるのも印象的。それは「風の古道」にも言えますが。
ちなみに夜市といえば台湾の夜のB級グルメの露店が多く並ぶあっちを連想したのは私だけじゃないはず。

次に同時収録の「風の古道」
神々や魔物が使う奇妙な道、古道に迷い込んだ小学生が、その道をさすらう旅人の青年と一時の旅をする物語。
こちらは夜市ほどのギミックはないですが、やはり描写と構成は見事で、その部分に関しては、表題作を上回っている印象。
とくに描写については、この短い尺で古道の美しい風景、儚さ、そこに関わってしまった人々の心情をよく表現したな、と思います。人によってはこちらを夜市より評価していますが、それも納得できます。
とくに本作で際立つのは会話文。
物語の核となる放浪する青年の描写はあまりなく、その会話から察するしかないのですが彼の言動や彼の視点で紡がれるパートによって、そのキャラクターが際立っているんです。

また恒川作品全体に言えるのは特徴的な改行の使い方。多用していますが、これは手抜きではなく余韻を生かした場面転換の手法として計算尽くなんですね。真似してみると分かりますが、実はすごく難しい。書道の余白のように、これも作品の一部と見るべきで純文学的な実験的表現とも見れます。それは文体にも言えます。
私は、ホラ大参戦のために、この作品を読んで、あまりのレベルの高さに尻込みしたクチだったりします。そして、この作風に憧れて真似てみて難しさが分かるんです。平易な言葉の積み重ねですが、逆に多くの語彙がなければ書けないし、相当な推敲が水面下で行なわれているはずです。
あとハードカバーと文庫で共通の表紙の金魚がイイ。ホラ大というか角川ホラー文庫って表紙が手抜きなイメージがあり、とくに同書の発売時期はひどかったんですが、これはすごくいいです。

個人的には文庫は薄くて安くてお買い得なんで是非読んで欲しい。小学生でも高学年なら問題なく読めるはずです。中高生なら読書感想文の題材にもいいと思います。短いし夏休みならピッタリ。読書感想文は純文学の方が先生に喜ばれそうですが、どうせ読むなら楽しい方がいいでしょ。

そのうち恒川作品特集とかしてみたいなー。



星新一のSS集と並んで読書感想文にオススメです。
posted by ヤマダマコト at 10:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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