2015年01月25日

ゴールデンラッキービートルの伝説★印象に残る新人賞その4

エンタメ文学の新人賞作品の面白さって、プロダクトアウト率がすごく高いという部分だと思っています。とにかく山ほどある他応募作を吹き飛ばすオリジナリティを第一に求めるんだろうと思います。
ただ、そのプロダクトアウトっていうのは本当の意味で自分が書きたいものではなくて新人賞のレギュレーションの中で勝つためのものでしかないような作品も多々あります。
それがデビュー後には徐々にマーケットインに傾いていく感じ。
新人賞は作者の個性を発揮する場ではあるけれど、書きたいものを書いているのではないという微妙なアングルが魅力で、端的にいえば「こういうのどうよ」と作家目線で語りかけてくるところが面白いというか。
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というわけで今回は水沢秋生「ゴールデンラッキービートルの伝説」
割と最近の作品で、新潮エンターテイメント大賞受賞作品。審査が恩田陸の回だったのは覚えています。同賞は最終審査を年代わりの1人の審査員がやるのが特徴で、もちろん出版社の意向も組んでるとは思いますが、割とムチャな作品が出てくるという。この回は恩田さんの好きそうな本という印象が強かった。
そんなカテゴリがあるかしらないけど、いわゆるおっさん向け青春ジュブナイル物語で、小学生の男の子2人にミステリアスな転校生少女を加えた3人の友情ストーリー。秘密基地で廃車を蘇らせようとしてみたり、宿題を分担したり。そんななかで学校のウサギ殺しや拳銃が出てきたりとミステリ要素が入ってくる感じで、この、仲はいいけど胸のうちに秘密を抱えた3人の1人称多視点で展開していきます。
やや類型的ではありますが、キャラが魅力的で個人的にはところどころで良いコメントを発する担任の先生が好き。
興味深いのは複数視点の一人称の完成度の高さ。
一人称多視点は個人的にも好きです。メリットは一人称の特性で視野の狭い視点を複数持てるので、先の読めないドラマが作りやすいこと。加えて、心理学な面で「第三者の理論」というか権利外観理論が機能しやすい。要するに「私かわいいよね」より「あの子かわいくない?」の方が説得力があるということ。マーケティングでいうところのバイラルマーケティングの根源でもあります。なので劇中でも描写が甘くても多面的な視点から表現に説得力を持たせられるんです。
ただ、デメリットもあって、キャラクターのかき分けが面倒でキャラ特性が被りやすい学園モノなんかは難しい。何より文章量が増えるんです。
だから、個人的には新人賞向けのスタイルではないと思っているんです。なぜなら多くのエンタメ文学賞は枚数の上限が500枚。このレギュレーションではしんどいし、あらすじをまとめるのもキツイと思います。ただ、昨今はこのスタイルでの新人賞受賞も増えていて、すばる新人の「桐島」とか果敢にチャレンジして成功しているものもあります。
ただ本作のすごいのは、そこに時間軸を複数設け、 多くの視点で伏線を張り巡らしながら書き分けていること。さぞやプロットは時間を要したでしょうし筆力に自信がないとできないと思います。
たしかに本作も序盤は分かりにくいし書体で時間軸を表現するとか変わった工夫もありますが、それを差し引いても見事に書き分けていると思いました。
桐島のような作者の若さとか学校カースト問題顕在化とかの追い風はなく、ちょっと地味な作品ですが技量は半端ないです。
なんだか今回は書き手目線のレビューになりましたが、普通に楽しいし、30代の人なら本当にオススメです。


早く文庫落ちしないかな
ラベル:書評 新潮エンタ
posted by ヤマダマコト at 12:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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