2015年05月13日

勝手にKDP本レビュー8★割られよ、凍てついた王冠よ

たまにはKDP本レビューでも。
今回は犬吠埼一介さんの新作「割られよ、凍てついた王冠よ」
ちょうど自作の詰めで、脳が軽いエンタメを欲していたところ表紙が目に止まり買った作品です。

内容は、鉱物から精製されるマグナ粒子が成立させている国家ベリエルグにおいて、民衆を管理下に置くごく一部の支配層に対して、自由を求める人々が反旗を翻して社会を再構築しようというSFファンタジー。

まず驚くのは、これだけの設定やプロットを、よくこの尺にまとめ上げたものだな、ということ。
普通なら長編数本分は書けるようなテーマと世界観があって、しかもマグナ粒子とか魅力的な設定があるわけですから、もっと書きたくなるところなんですけどね。ハリウッド映画のシナリオプログラムのように割り切ってまとめている。
描写を省くとかじゃなくて、意図的にやってるんじゃないでしょうか。
おかげで、非常にテンポのよい作品になっている。こういう作品が好きな人はかなり多いと思うんですよね。
物語も王道というかストレートな感じ。とくにひねった仕掛けはなくツボを抑えた安定感があると思います。

で、もう一つ、このテンポの良さを成り立たせているのが、意外にも「テーマ性」。世界のリデザイン、支配層からの解放というテーマを分かりやすく伝えるために、物語を完全に二元論化するという大胆な手法を組み込んだ結果、そうなったのだと思います。
とくに市井の人々を顔も見えない「弱者大衆」にくくるのは勇気がいることだと思います。普通はやらないところを意識してやってる。そこは作者の思想を体現しているのでしょう。
だからと言って描写が甘いわけではなく酒場や街などの場面も所々に挿入し「支配層が何者か知らぬまま、思考停止しただ繁栄を享受する人々」であることはよく分かるんです。
加えてタイトルにもなっている「王冠」の存在がすごくいい。SF的でハードなテーマを掲げながら、最後に「王冠を戴くことで支配者が変わる」という、まるでおとぎ話のような演出が無茶苦茶カッコいい。現代の寓話の趣きがあります。

一方で不満というわけじゃないですが、もっと、この魅力的な世界に浸りたかったというか、隣国との戦闘とか、名もなき大衆が真実に気づいたときのリアクションとか、そういう部分をもっと楽しみたかった。
キューバ革命の真の英雄やゲバラでもカストロでもなく、やはり搾取され続けた名もなき農民たちだったように思うんです。
やっぱり勿体無いです。スイカの先っちょの甘いとこだけが皿に乗ってる感じというか。それはそれで素晴らしいんですが、私のような活字ジャンキーは、皮スレスレの青臭いとこも食べたい。むしろ、そこを味わいたかったのが本音。
その辺は次作に期待なんでしょうね。

っていうか、読んでみたら、決して軽くないテーマなんだけど、基本的にはテンポの良いエンタメ作品であることは間違いないです。



私もこういうテーマは大好きなんで刺激を受けます。でもファンタジーというか架空世界は苦手なんで、現代劇だろうなぁ。
「新潟県知事選の応援演説に来た総理大臣を、地元の高校生グループが恋に部活に悩みながら、爽やかに暗殺する青春ストーリー」とかどうだろう。タイトルは「美しい国」とか。
posted by ヤマダマコト at 21:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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