2015年05月15日

勝手にKDP本レビュー9★ターンワールド

初めてだと思われる2回続けてのKDP本レビュー。
今回は牛野小雪さんの「ターンワールド」
これから自作のプロモもやらなきゃだし、乗り遅れるのも嫌ですし。ちょっと飛ばし気味です。

ちなみに牛野さんの本は3月に「真論君家の猫」を読んでいたので、なんとなくリンクした感じのレビューになるかと思います。

このターンワールド、人生や世の中との折り合いをつけるのが苦手な青年タクヤが、就職活動失敗などの挫折で家出。ホームレス経由で徳島県に行こうと思い立ち、異世界に迷い込むという物語。その旅をロードムービー的に描いているわけです。

ちょうど真論君家の猫でも同様に主人公たる黒猫みーたんが旅に出るくだりがあり、物語の大きな部分を示すのですが、やっぱり似ているんです。これは、牛野さんの嗜好なんだろな、っていう。
その両作品に共通して、またロードムービーとしても個性的なのは、どちらも基本一人旅。そして、常に出会いと別れを繰り返すこと。
とくにターンワールドでは、それが顕著になっていて、タクヤは旅先で多くの人と出会い、一時的にともに歩くこともありますが、基本的にはより孤独。常に冷静で相手との距離を保ち、別れるときには「そろそろ別れるだろうな」と悟ったりします。常に落ち着いて相手を観察しているのが、非常に興味深い。

で、これが青春小説や自分探しの物語ならば、旅先でこれまでの自己を見直したり、出会いや別れに苦悩し、障害にぶちあたり成長し変化するものですが、このタクヤ君は常にクール。もちろん、迷ったり悲しむことはありますが、それを経て明らかに成長したのかというと、よくわからないという。いや、それなりに成長しているんだろうね。
どちらかといえば、タクヤの視点は常にニュートラル、周囲の人が変わっていく印象なんです。冒頭の徳島行きのバスまでは、結構、今風の悩める青年だったんですけどね。
いや、それも違う感じがするな。出会ったキャラは変わったようで本当はどうなんだろうか。わかんね。
そうした傾向は真論君でもあったんですが、こちらは、より先鋭化している印象があります。
あちらは旅部分も含め、全体を通じて物語の構成が分かりやすかった、というより普通のエンタメ小説の体裁をとっていたように思います。その上で、牛野さんならではの強烈なシーンを混ぜ込んでいくという。
ただ、ターンワールドについては、その私の知るエンタメ小説の文法からずれた感じが不思議なんです。
でも面白いし、知的で滑らかな語り口は只者ではないことを伺わせるわけで。
そもそも、これだけエンタメにしやすい題材に対して、こういうアウトプットになって出てくるセンスがすげぇ。キャラクターはセリフからネーミングまでいちいちセンス溢れる感じがするし。

ネタバレなんでアレですが、ラストはそれなりの予定調和なんでしょうけど、すごく曖昧にぼかしている感じがします。ようするに、最後は自分で考えろよ、みたいな。

そんなことを考えていて思い出したのが某電波少年の「猿岩石日記」。ユーラシア大陸をヒッチハイクで横断するヤツの本。全然違うんだけど、安易に感動方向に走らないシュールな雰囲気とか、ちょっと重なる。ゴールしたらさっさと日本に帰りたがる辺りとか。
いや、ターンワールドはそんなチープなもんじゃないんですよ。
遥かに面白いんだけれども。

少なくとも異界往還ものとしては、非常に原初的な作品であることは間違いないです。昨今のアニメやゲームのようなものではなく、もっと昔の、それこそ昔の民話、寓話の延長線上に位置づけるのが妥当な気がします。

それにしても、KDPは深いっすわ。
すごくハイレベルだけど、すごく異端という。



個人的には前半はターンワールド、後半は真論君の方が好きかもしれない。これはもう好みだと思います。
私は分かりやすいエンタメを好む俗物なんで、そう思うだけだと思うし。
posted by ヤマダマコト at 22:18| Comment(2) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ターンワールドのレビューありがとうございます。
皆さんがどんどんレビューしてくれるので嬉しい半面、何だか恐くなってきました。

その中でもタクヤが冷静という意見が多くて実は驚いています。私の中では目をつぶって歩いているマイナス方向に熱い男だと思っていたんですよ。
こういう事があるから他人がどう読んだか知るのは面白いですね。以前忌川さんがTwitterで私の書く主人公は善良なサイコパスみたいだと指摘されていたのですが、自分の見る視点と他人が見る視点は違うようです。


>タクヤの視点は常にニュートラル、周囲の人が変わっていく印象なんです。

ここを読んで胸がドキリとしました。ターンワールドの腹案がまさにそういう話だったのです。ヤマダさんに心の底まで見透かされたようでヒヤリとしました。こういう事は書いていないつもりでも、作者の気付かないところで表に出てくる物かもしれませんね。

素敵なレビューありがとうございました。


嬉しい気持ちの牛野小雪より
Posted by 牛野小雪 at 2015年05月16日 09:10
いえいえ。万華鏡の中の模様みたいに、読むたびに形の変わる不思議な作品でした。
あるいは、読み手によって見えるものが違うロールシャッハテスト的な作品かな、とも思ったり。
Posted by ヤマダマコト at 2015年05月17日 00:34
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