2016年02月01日

勝手にKDP本レビュー★23「440Hz」澤俊之

澤さんの440Hzを読了しました。
前からずっと気になってはいたんですが、ちょっと手を出すのが怖かった。
なんつーか、やっぱり音楽というジャンルへの敷居の高さを感じてたんで、少し二の足を踏んでいたのは事実です。王木さんやヘリべさんもそうですが、こういうカッコいい系の雰囲気は、ちょい気合を入れんと踏み出せない。
とはいえ、評判良さげだし、なにより某群雛さんのインタビューなんかを読むと、明らかに面白い気配がぷんぷんしたんですよね。

ストーリー的には、感情のやり場がない男子高校生がギターと出会う内容。「ギターと出会う」というより「ギターを取り巻く世界と出会う」という表現の方が正しいのかもしれない。キサラギさんなしではストーリーは成り立たないでしょうし。
ストーリーそのものは、本当にシンプルで取っつきやすい。展開も予測不能なほどひねるわけはなく。
ただ、個々のキャラクター造詣がすごくいい。主人公の祖父の感じとか、現代では想像しにくいですが1979年なら、不思議ではないかもと思わせられるし、いや、私は知らないですけど。79年生まれなわけで。
ポイントはデフォルメの妙なんでしょうね。本作のキャラは極力デフォルメせずに人間として自然に描きつつ、ちょっとだけアクセントを強調して物語の展開を円滑にしているんだと思いますが、その辺のバランスが見事。
たとえば主人公の両親や祖父母は、わりと設定上は個性がしっかり付いてるんですか、主人公に対するスタンスはすごく繊細で、安易にマルバツで語れない。リッチーたちもそう。もう、そこに存在しているとしか言えない。みんな人間らしくて、一言で語れない存在感があるわけですよ。
だから、最小限の描写でもキャラが生きてくる。
読書量もさることながら、澤さんの人間としてのコミュ力の高さをうかがわせます。人間を描くには文章力以上に観察力や洞察力が大事なんじゃないかと。

あとは世界観ですよね。海洋大学の雰囲気とか、すげー好きっす。やっぱり、ギター、海、バイク、さらにテント。この組み合わせは鉄板というか、それだけでカッコいい。
あとは、主人公の回想録形式で進むわけですが、それがいいんですよ。知的でハードボイルドっぽい匂いがする。食い物系へのこだわりも、まさにそれ。
その中で、少年の苛立ちや不満に対して、ギターを通じて、キサラギという大学生が、大人として、人として、進むべき方向に導いていくわけですが、この男のセリフが、非常にセンシティブ。酔っ払ってアパートで仲間とマリオカートやってた私の大学時代はなんだったのか、と言いたくなるくらいクールで知的なわけですよ。
というか、実は序盤はキサラギは大学に住む地縛霊的な、ギターの妖精的な人かと思いました。ギターを大学に置いたまま海の実習で事故死した天才ギタリスト的な。結構マジな話で。

ストーリー的には主人公とキサラギのやり取りを軸に、主人公の家族や同級生、ライバルになる人たちが出てくるんですが、割とシンプル。ただ、その中に怪しげなギターやハプニングなど、物語とやらなければならない部分はしっかり押さえて行き、その積み重ねが最後にいい具合に爆発する感じ。
起承転結の「承」を大事にしているからこその重みなんですよね。
その上質なストーリーを饒舌で知的な文章でグイグイ読ませていく。ただ、奥行きがあって、語られていない部分にもエピソードがいっぱいありそう。その辺を一連のシリーズで語っているんだろうな。



ちなみにギターどころか楽譜の読めない私でもまったく問題なく楽しめました。どっちかと言うと若い子に読んで欲しいですね。こういう作品は。
専門用語は分からなくても無問題。440Hzがなんだか、根本的に分からないですが、それでも楽しませる懐の深い作品。分かる人はもっと楽しめるんだろうなと思います。
ラベル:Kindle KDP 音楽 ギター
posted by ヤマダマコト at 23:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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