2016年03月06日

勝手にKDP本レビュー★27ヘリべマルヲ「悪魔とドライヴ」

ヘリべマルヲさんの「悪魔とドライヴ」を読了しました。面白かった。とくに終盤は夕食作るの忘れるほど夢中でした。その結果、悲劇もありましたが、まあいいや。

年明けから色々と話題を振りまいていた作品ですが、そういった作品周辺の話はわざわざ私が触れてもね。ヘリべマルヲさん本人に対する話もそう。そりゃあ名前は知ってるし、私の「山彦」に光を当ててくれた恩人でもある。なんか色々勘違いされているフシもある。なんちゅうか買い被られると胃が痛くなります。
まあ、それは置いておいて。
とりあえず、ここは純粋に作品自体の感想を書いた方がいいんだろうと思いました。

ストーリーについては、冴えない高校教師の辻Qこと辻久太郎と、彼に恋するその教え子、獄門島ちありを軸に展開していきます。2人のコミュニケーションの中心が小説執筆であり電子書籍の個人出版。そんな2人の奇妙な共生関係が1つの軸になっている一方で、2人の家族関係の奇妙な繋がりやちありの母、エゴイズムの権化たる千里の動向がもう1つの軸になっており、やがて最後の「お祭り」ですべてが交差するわけです。脇を固める登場人物も強烈で、みんな、それぞれ腹に一物を抱えた人物ばかり。
ストーリー自体の濃さに輪をかけて独自の世界観が広がっていきます。
とにかく会話や心理描写、行動から見える登場人物の濃さというか、紋切り的なデフォルメを許さない感じが、すごく「らしいな」と。

印象としては、序盤は「さほど」だったんですよ。ちあり始め主要キャラに感情移入しにくかった。良し悪しというより、それこそ思考の方向性の微妙なズレというか、本作については胸がえぐられるほど共感できる部分とまったくついていけない部分があって、とくに序盤はそれが極端でした。アナーキー過ぎるというか。いや、上手いのは間違いないんですよ。技術的な部分はちょっとインディーズでは群を抜いてる。
やっぱりテンポが良すぎたんだと思うんです。これだけ濃いのなら、もうちょっとゆっくり咀嚼しても良かったのかな、と。それに耐えられるだけのクオリティは絶対にあるわけで。これだけとんがった世界観なら、もっと時間をかけて読者を酔っ払わせる余裕が欲しかった気がする。
無茶苦茶美味しいウイスキーでもやっぱり水で薄めて欲しい時ってあるじゃないですか。あるいは女子の魅力には「贅肉」や「ムダ毛」、「嘘つき」だってあるわけです。なんていうか、いい意味で「隙」が欲しかった。
具体的には、前半の久太郎とちありの交流はもっとページを割いても良かった気がするんです。ムダな場面でもいいので。それだけで作品の印象は変わりそうな気が。

とはいえ、中盤以降、謎の作家「Q」が社会現象となり、また千里が動き出したあたりからはページをめくる指が止まらなかった。個人的な好みももちろんだけど、まさに誰も読んだことがないストーリーでした。「そうそう、こういうのが読みたいんすわ」と叫びたくなる展開。だいたい教師と女子高生の恋愛なんてどうでもいいし。
しかも、個々のピースは他に心当たりがありますが、展開は読めなかった。怪しいセミナーだとか世論の大きなうねりとリンクしたストーリーとか、思いっきり私のフェイバリットではあるんですけど、その流れに持っていくやり方が上手いし、そういう世の中の動きに対する筆者の捉え方が本当に巧み。すごく面白いし、ちょっと嫉妬してイラっとする。
ラストも良かった。あれ以上は思いつかない。後半はあっという間に読み終えてしまいました。

ただ、総じてクドいものやダサいものを排して過度に説明的な表現を抑えた結果、割と敷居が高めな作品になっちゃった気もするんですよね。テンポを維持したかったのかもしれないけれど。あるいはハードボイルドを多分に意識しているのかもしれない。

ヘリべさんには「俗っぽい発想」とかバカにされるかもしれないけれど、もうちょっと全体的にクドいくらいに分かりやすくしても良かったと思うんですよ。例えば、千里さんとか断片的な描写は多いですが、読者への情報提供はもうちょっとあっていいと思うんです。もっとストレートにカリスマ性や異常性なんかをエピソードを通じて示してあげた方が良かったかもしれない。ああいうキャラになった経緯とか。
演出もそう。もうちょっと演出過多というかオーバーリアクションでも良かったような気がする。きっとそれくらいやっても、この作品の魅力って色褪せないと思う。それに耐えるダイナミックで力強い作品だし、もっと幅広い層にウケるんじゃないかなと思いました。ヘリべさんのブログに「読書体験」という言葉がたまに出てきますが、まさにそれ。「俺、凄いの読んでるのかも」と思わせる小細工が欲しいかも。今、マーケティング系コンサルが「中身よりパッケージに金をかけろ」って仰るのがトレンドですが、そういう感じ。冒頭にポエムを置けとまでは言わないですが、もっとハッタリを効かせていいと思うんです。
今より多少俗っぽくなった方が、より、多くの人に読まれるでしょうし、たくさん愛されると思う。
私のように極端に人畜無害なエンタメ至上主義者的な発想ではありますが。



なんか辛口ですが、作品のクオリティに不満はないんですよ。何度も言うけど。重箱の隅を突っつきたくなるのは悔しさの表れと思っておいてください。売れてるみたいだし。おかげで夕食が遅れてしまったし。
posted by ヤマダマコト at 11:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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