2016年03月07日

勝手にKDP本レビュー★28犬子蓮木「長袖にきがえました」

なんとなく、犬子さんの「長袖にきがえました」読了。
前から、犬子さんの作品は気になってたんですよね。シンプルな表紙と前衛的なタイトルが興味があったんですが、一方で、あまりにも前衛的過ぎてついていけなかったらどうしようか、という不安もありました。例えば「とわとわの三角」とかタイトルと表紙と作品紹介から興味はあるんだけど、内容が想像できなかった。面倒だからサンプルとか読まないし。
ただ某競作企画のSSとか読んだら、思いのほか健全で面白かったんですよね。そのタイミングで新作が出たということで、作品紹介も見ずにノリで購入したんですよ。
タイトルからしてエッセイな気配もしたんですが、それにしては表紙がヘビーな印象なんで、多分、小説なんだろうと。

で、さっそく開くと横書きでびっくり。ケータイ小説出身者からすると懐かしいフォーマットです。意外に読みやすいなと。さすがにガラケー時代のサイトとは違うなと思いました。Kindleさん凄いや。これなら、昔みたいに改行多用しなくても読めます。
文章は繊細で端正で、時々おしゃれに韻を踏んだりする華奢な感じ。好き嫌いはあるかもですが、私は好みです。

ストーリーは、人類滅亡後、人類に造られた道具としての人々が暮らす世界を旅する少年の話。もちろん、彼も普通の人間じゃないし、相方の助手もそう。ひたすら植物の種を撒きながら与えられたエリアを周り続けている様子。
彼らはそれぞれ人類の道具としての役目があって、限定的な自由を与えられながらも、その役目から逃れられず、さらに目的によって寿命や老化サイクルも違うという。
なんとなく90年代のマンガやアニメで見たような世界観だなーと最初は思いました。アフタヌーンあたりに連載してそうな感じ。特に前半の同業者との出会いとか、まさにそれ。意外と普通に読めるじゃないっすか、と安心しました。
決して斬新だとは思わない世界観なんですが、その主人公たちの出会う人々を通じて得られる、この世界の成り立ちやそれぞれの役目を知り、同時に、我々人間が考える「自由」、「社会的役割」、「生命」とかそういう観念的な存在に対して、別な視点で照らしてみよう、っていう試みがすごく興味深いっす。「社畜の悟り」的な穿った見方もできないことはないのだけれど。
すごくメッセージ性が高い一方で、ちゃんと各エピソードに意外性を盛り込んでエンタメ要素をキープしてあるのもいい。ネタバレになるとあれだけど巨木のアレや火事のアレや。どれも唐突にとって付けたようなものじゃなく、ちゃんとテーマや世界観に沿っている辺りにセンスを感じます。すげー面白い。いつも寿司ねだってるだけの人じゃないんですね。特に終盤は凄く重いテーマだし、色々、考えさせられました。ラスト付近の2人の別れやりとりとかも重い。容赦ねえな、って思いました。
そして、なんとなくシュールなタイトルの意味が分かる感じ。

ちなみに、面白いと思ったのは場面の転換や時間経過で行を開けたりしていないこと。
最初はなんでだろう、って思いました。すごく繊細な文章だし、ストーリー自体が穏やかで物悲しい雰囲気なんで、逆に空行を多用して間を作った方が作品の味わいが深まるんじゃないかな、って思いました。
よくストイックな公募チャレンジャーに「改行をあてにするのはダメ。なるべく文章で時間を経過させろ」みたいな意見の方がいますが、私はそうは思わないんです。濃淡のみの水墨画みたいに、余白を生かした作品があっていいと思うし、この作品についてもそう。
でも、劇中で相当な時間経過があるのに、その表現が異様に少ない。
なんでそうしないのかな、って首を傾げていたんですが、これは多分、主人公の設定によるものなのかなと。長寿で老いない、記憶も失せない。その主人公の設定に即して意図的にリニアに見せているんじゃないかな、と。そんな気もしました。



多分、好きな人はすごく好きなタイプの作品だろうと思います。
ラベル:Kindle KDP SF
posted by ヤマダマコト at 13:13| Comment(2) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
焼きそばレビュー、いつも楽しく読んでいます。

ところで、このブログのフォントサイズは小さいですね。もうすこし大きいと読みやすくて助かります。せめて16pt以上くらいの大きさであれば、ずいぶん読みやすくなるのではと思いました。
Posted by at 2016年03月07日 14:27
楽しんでいただきどうもです。
文字サイズについては気にしてませんでした。ちょっと検討してみます。
Posted by ヤマダマコト at 2016年03月07日 17:49
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