2016年09月25日

勝手にKDP本レビュー★38花笠香菜「シオンの遥か」

というわけで久しぶりのKDP本レビュー。
花笠香菜さんの「シオンの遥か」を読了しました。
花笠さんの作品は、設定とか雰囲気でそそられることが多いんですよね。何故か分からないですけど。
今回はユダヤの失われた10支族に地底に存在する超文明とか、まさに往年の「ムー」読者なら、しばらく絶っていたヤバくて白い粉を目の前に置かれたくらい魅力的な素材をふんだんに使ってるわけで、そりゃ、飛びつかないわけにはいかないでしょう。
特に地下世界の入り口に伊勢神宮を持ってくるあたりも、中学時代に日ユ同祖論なんかの超古代史にハマった人間にとっては「分かってるね!」感が満載な感じがしました。
世代が近いのか趣味が近いのか分かりませんが、このチョイスはお見事。実際に同じ趣味の人がどれだけいるか分かりませんが、まず、この作品を世に出しただけでも素晴らしい。

ストーリーは、大学進学を決めた高校生・悠、悠たちの学校の女教師、園江先生、悠の友人で変わり者のインテリ、ライヤ博士がひたすら先人の本をガイドに地底世界を進み謎を解くシンプルなもの。
キャラクターは、すごくコミカル。脇役も含めヤングアダルトやラノベ寄りです。キャラクターの平均年齢は決して低くないし、恋愛を中心に人間関係が丁寧に描かれますが、ケレン味のないシンプルな描写と相まって、むしろ小学生でも楽しめそうな気がします。エログロもなく健全なところも、きっと幅広い読者に愛されそう。

超古代史ミステリというほど面倒な専門用語がたくさん出てくるわけではなく、どちらかというとファンタジーよりですね。科学技術が進みまくった地底世界は、もはや地上人(なんかダンバインっぽい言い方っすな)から見たら魔法なわけですよ。水や土がしゃべるし、インコは火を吹くし。で、地底はユダヤの末裔の地下王国なんですが、それなりに地上との交流もないわけではないらしく、地底人の異文明という感じではなく、閉ざされた隠れ里っぽい印象の方が強よかった。最後はアレでしたが。

かなりスケールの大きなストーリーではありますが、キャラクターの語りが砕けていて、ノリがいいので、そんなに重厚な感じがなかったのが意外です。私はハッタリをかましまくった重いストーリーが好きなんですが、そこは好みでしょうね。
全体を通じて、意外な展開や伏線の回収など、大技こそ少ないですが、トリッキーな小技が随所に光る良作だと思います。

逆に、気になるのは、やっぱり描写かなー。これだけ魅力的な世界なのだから、もっと地底の人々の息遣いや独自文化について知りたかったし、一度、イスラエル建国の話が出てくるんですが、そうした史実や世界情勢を積極的に取り込んだら、唯一無二の傑作になる予感がします。
あと、物語の中核の部分について「ある人」の語りで済ませてしまった部分がもったいなかった。あのエピソードを主人公のいる時間軸で人間ドラマとして展開できなかったものかな、と。労力は半端ないですし1000枚オーバーになるかもですが、この作品の器を考えれば、そういう超大作でもいいと思うんですよね。そうすれば登場人物が増えて、より異世界感が出てくるんじゃないかと。



ぜひ、花笠さんにはこの系統でもっと書いて欲しい。色んなジャンルを手掛けられる才能の持ち主であるのは承知の上で。そうしたら、多分、追いかけ続けると思う。こういうテーマって意外と良作が少ないんですよ。だからこそ、ちょっと辛口な感じでいかせてもらいました。ハイ。
posted by ヤマダマコト at 11:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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