2017年10月31日

勝手にKDP本レビュー★51王木亡一朗「LOST IN CONVERSATION(ロスト・イン・カンヴァセイション)」

そういえば、結構前に読み終わっていたけど、レビュー書いてなかった本があったので。
王木亡一朗さんの「LOST IN CONVERSATION(ロスト・イン・カンヴァセイション)」です。
先に結論から言うと、昨年夏以降に読んだセルパブ本の中ではぶっちぎりで良い作品だと思ったし、これまでのセルパブ本の中でもすごく好み。

王木亡一朗という人物について、リアルで会ったことがないので、イケメンかどうかは分からない。年も離れてはいる。でも、同郷の人間で、同じまち、おそらく同じ風景を見て育った人間ということもあり、作品舞台だけでなく、どこかフレーズだったり表現だったりに「わかる」部分があったりする。
で、作品も全てではないですが、だいたい読んでいるわけです。やっぱり気になるし。
王木さんといえば、自作の表紙やタイトルからほとばしるセンスはひとまず置いておいて、その中身については、意外と堅実な作風というか、そこまで先鋭的な印象はなかったんですよ。今までは。
例えば比較的古い「ブッダブッダブッダ‼︎‼︎‼︎」は、女子高生のバンド活動というテーマで書かれたテンポの良い作品で、クオリティも安定した青春小説でした。しかし、繊細で軽やかな作風とは裏腹に、モチーフや表現の鮮度という点ではやや弱かった。他の作品もそういう傾向があって、私がKDPに参入した頃、王木さんの作風の印象って、私ほどではないにせよ「すごく保守的」だったんですよ。良し悪しの問題ではなく、そういう作品を好む人なのだろうと思ってたんですよ。ぶっちゃけ。
ただ、この2年くらいでどんどん変わってきたんですよね。「ティアドロップ」とか「夏の魔物」の収録作のいくつかからどんどん変化していって、とうとう本作で突き抜けた感じがするんですよね。
そして、王木さんの作品の中でも一際評価の高い(ような気がする)「Our Numbered Days 」で個性を確立して、今回、そこから一足飛びで凄いものが出てきたなと。

で、本作なんですけれど、小学生の仲間たちが、夏休みのある事件をきっかけに大切なものを失うお話。それぞれが大人になってもその喪失感は拭えず、物理的にも精神的にも深い傷として残る中、それでもあがく物語。特に事件の鍵である相沢総一郎を中心に展開していきます。
ノワールっぽい重苦しい世界観もさることながら、複数の時間軸を順を追って、複数の人物から見せるダイナミックな構成がハマった感があります。特に一章から二章への繋がりは見事。個人的にはその二章がすごく好きで、静けさの中に緊張感を保ちつつ、なおかつ章のラストもいい。この部分だけで王木作品の最高傑作だろうと思う。
加えて、とにかく、仕掛けがうまく機能している。人称の使い分けも上手いし、特に一章の執拗な描写もすべて計算づくだと気づいた時には参った、としか言いようがなかったっす。全体を通じて丹念に描かれる喪失感は、エンタメの枠をこえて純文学的な重みがあります。ていうか、エンタメであることに対するこだわりがないのかもしれないな、と思いました。普通に考えればサスペンスやミステリの文脈で語られる物語だし、そこを意識した描写も散見されるんだけど、その割には「ユタカさん」とか、そっち系の描写は抑えめ。サスペンスであれば彼をメインにする方が自然なところを、むしろ、そっちはさらっと流して、メンバーそれぞれの事件後に焦点を当て、心理描写に軸足を置いているのが面白い。結果的に、その微妙な立ち位置がこの作品をオンリーワンにしている感じがする。
世界観が好み、という以上にそのバランス感に驚かされます。

気になるところもないわけじゃなくて、明らかに三章以降は書き急ぎ過ぎだし、ソウイチこと相沢総一郎がものすごく魅力的な一方で、彼以外のキャラクターについてはやや類型的な傾向があったりもする。つまるところ、もっとゆっくりと彼らの再生の物語を紡いだ方が良かった。どう考えても400枚とか500枚で収めていい作品じゃないと思うんです。
要するに、王木作品の中でも荒っぽい面も多いんだけど、それ以上の圧倒的な魅力があるのだと思います。
個人的には、この方向性でもっと突き詰めて欲しい気もする。これだけ重いテーマを軽やかに書き上げるのは、なかなかできないことだし。



とまあ、そんな感じです。長々書きましたが、それだけの作品だということ。
一方で、同郷の物書きとして、めちゃくちゃ悔しかったりもするんですけどね。同じようなアプローチでどうやれば上回れるのか、とかばっかり考えてるという。そもそも、似たようなアイデアがあったとしても、この方向性には進めないでしょうけど。
あんまり悔しくてスルーしたろうかとも思ったんですが、なんか色々と別件でリストアップするにあたり、ちゃんと書き残しておかないといけないだろうなと思い書いた次第であります。
以上。
ラベル:KDP Amazon ミステリ
posted by ヤマダマコト at 22:51| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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