2019年02月10日

やっぱり99円だと読んじゃうよな。真藤順丈「宝島」

この間、直木賞を受賞した真藤順丈「宝島」を読了しました。
個人的には芥川賞も直木賞も日本レコード大賞くらいの印象で見ているのであんまり興味がないんですが、それでもエンタメ書いてるので直木賞はそれなりに気にしています。少しくらいは。どちらかというとノミネート作品を眺めて、んで選評や作家の文壇におけるパワーバランスを楽しむ感じ。
そんなわけで、今回はkindleストアで99円の
という破格のセールをやっていたことがポイントでした。出版社がこのタイミングで文庫落ちしていない新作を99円で売るのは珍しいし、ありがたかった。セールがなければ、「あの4冠デビューの真藤さん10年頑張ったね」で終わっていて、作品を読むことはなかったと思います。
こういう感じのセールが成功して「電子はお得」という認識が広まれば電子書籍も普及するのにな、と思いました。



というわけで本題。
ちなみに真藤作品はデビュー作の「庵堂三兄弟の聖職」、「地図男」以来です。彼が大賞を獲った回の日本ホラー小説大賞で私は一次落ちしていて、そんなこともあって受賞作の「庵堂〜」を読んで、「なかなかワイルドな文章を書く方だな」という印象を持っていました。ダヴィンチ賞の「地図男」もあわせて、おそらく相当筆が早いんだろうという感じはしていました。んでラノベ系でも賞獲ったんでしたっけ。
ただ、その後はあんまり話を聞かなくて、久しぶりに名前を見たのが今回。
それでセールもあって購入したんですが、面白かったです。
この時期に沖縄をテーマにした作品を出すこと自体が色々アレですが、まずはエンタメとしてとてつもなく面白いです。
戦後間もない頃の沖縄で、米軍基地から物資を強奪してくる「戦果アギヤー」たちのカリスマ「オンちゃん」が、嘉手納基地での強奪中に失踪。突然消えたコザの英雄に人々が意気消沈する中で、彼の親友、弟、恋人が、彼の行方を探りつつ、戦後から本土返還までの占領下の沖縄を生き、変わり続けていく物語。史実をしっかりと下敷きにした上でフィクションとノンフィクションの間を行き来するようなイメージです。
軸としてはミステリなんですよ。「オンちゃんは生きているのか?」という根っこがしっかりある。
ただ、沖縄戦をローティーンで経験し、戦後のアメリカ占領下で日本政府にも見捨てられた理不尽な環境で生き延びる若者たちが英雄「オンちゃん」の影を追いかけながら、時代と向き合っていく成長物語でもあるし、歴史小説的な側面も強い。人によってはハードボイルド的な面白さも見つけられるかもしれない。なんとなく藤原伊織の「テロリストのパラソル」にも似ている気がする。
ストーリーとしては、かなりダイナミックに動くし、1000枚強(多分ね)の分量の中で登場人物も多めなんだけど、とにかく、沖縄に対して正面から向き合って描き切った感が気持ちいい。圧倒的な熱量がある。これは、かえって本土人だからこそ書けたんだろうなという感じがします。
あと真藤さんの文体がすごくマッチしている。この勢いがこの物語に必要だったと思う。ラストも普通の作家なら斜に構えてカッコよく決めるところを、もう良い意味でこっぱずかしくなるような直球を投げこんでくる。だけど、それが気持ちいい。ストレートだけど、すごく軽やかに駆け抜けていく感じがする。
誰かが「沖縄の哀しみをポップに描いた」と評していたそうだけれど、むしろ、戦後の沖縄のヘビーな部分をあえて軽やかに鮮やかに描くのはすごくいいと思う。このテーマでそれをやれる肝っ玉を持ってるヤツが商業作家の中にどれだけいるだろう? エンタメだぜ、これは。関連して、シリアスな場面でも容赦なく入ってくる合いの手(イーヤーサーサー)とか日本のエンタメ小説では珍しい「語り部」の存在もいい。おそらく、今後、映像化された時に演出担当は頭を抱えるだろうけど。
強いて気になる点を挙げるなら、「これは語り部(ユンター)の紡ぐ物語である」という部分を早々に強くクローズアップすべきというか、神視点を序盤で押し出していった方が分かりやすかった気がするし、最後はもっと引き締まったんじゃないかなと。普通の三人称小説の中で語り部が混ざってくると視点人物の心理描写とごっちゃになる感じがする。ただでさえ独特の文章にウチナーグチが加わり、そこに合いの手が入るとややこしくなる。ただ、その混沌とした表現が、また沖縄っぽくて心地よかったりするんだけれども。

なんつーか、辛い過去を正面から受け止め、軽やかに飛び越えていく感じと、それでも癒えることのない重い悲しみとか怒りが混在する読後感がなんとも言えない。
もちろん、こんなフィクション1冊で先の大戦後の沖縄を分かった気になっちゃいかんと思うんだけど、それでも戦後から本土返還までの空気感みたいなものは感じられるし、中高生に読んでもらいたいな、と思う。学校で習う数行のテキストでは伝わらない沖縄のエネルギーみたいなものが少しでも伝わればいいし、沖縄に足を運ぶきっかけになればいいな、と。ラストで語り部から読者に向けられるメッセージは限りなく重い。
私は高校の修学旅行で沖縄行ったけれども、もしも出発前にこの小説を読んでいれば、全然、見方が変わっていたと思う。国際通りの風景も「象の檻」も。それくらいのパワーがある。
とはいえ、あくまでエンタメとして、肩の力を抜いて一風変わった冒険小説、英雄叙事詩として楽しむのが1番良いかもしれない。
オカルト好きな私個人としては、ウタキとか沖縄のシャーマン文化を取り込もうとしたのは面白かった。そういう土着文化の使い方も上手い。ああいう要素も語り部(ユンター)に帰着していくものだし、意識して取り込んだんでしょう、きっと。

まあ、あれです。「沖縄の戦後史」という難しいテーマに本土の作家がエンタメの分野で踏み込むという難しい賭けに見事に勝ったな、という。それが全てだと思う。
おかげで、今後は娯楽小説としての評価とは違ったところで色んなノイズが聞こえてきそうだけれど、まあ、それはそれで話題作としていいんじゃないっすか。平成最後だし。
むしろ議論や賛否があっていいし、そうあるべき作品だと思いました。結果的に注目されて、売れて、多くの人が読む機会になればいい。というか、この本そのものが戦後沖縄が奪われたものを取り戻そうとする「戦果アギヤー」のように思います。
これで99円は申し訳なさすぎるので、ちょっとPRしてみた次第です。ゴチになりました。
とりあえずオリオンビールが飲みたい。
ラベル:Kindle 書評 雑談
posted by ヤマダマコト at 22:44| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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