2017年11月11日

勝手にKDP本レビュー★52「桜七」小野寺秀樹

小野寺秀樹さんの「桜七」を今更ながら読了しました。泣く子も黙るKDPのヒット作であり、吉本のアレを受賞されたり、去年、今年のKDPあるいはセルパブを語る時に避けられない作者であり作品だと思います。
私もかなり前に購入してたんですが、なんとなく読まなきゃと思いつつ、他にも積んでる本がたくさんあって、この時期にようやく読めたんですよ。でも読んで良かったし、もっと早く読んでおくべきでした。

とりあえず、レベル高いです。「このセルパブ」のアンケート前に読んでおけば良かったな、と後悔するクオリティーなんですよね。でも、どうせ、たくさん票が入るだろうから、別に良いかな、という気もする。あーでも、そんなこと言ってたら去年は赤井さんがあれだったしなぁ、という。

繰り返しますが、クオリティーは凄い。KDPで、こうした「普通のエンタメ小説」って意外に少ないんですよ。ラノベは多いんですけどね。あと、純文学とか原理主義的なミステリも多いんですけど、こういう万人向けの重厚なエンタメはありそうで少ない。

ストーリーは、主にサバイバルもの。都内企業に勤務するタフガイ・鮫島が、関東直下型地震で崩壊、さらに津波や噴火に見舞われた東京から、仲間たちと長野へ徒歩で脱出する物語。べらぼうな身体能力やサバイバル術、様々な知識を持つ主人公・鮫島が、職場の同僚であるヒロイン・奈菜になぜ固執するのか、といった謎をはらみながら、スリリングに展開していきます。
実は、最初にストアのランキングで見た時には、刑事アクションとかサイボーグ自衛隊員が活躍する話だと勝手に思ってたんですけど、完全に予想外の作品でした。

こういうサバイバル系は、その昔、ケータイ小説全盛期の2007年頃にちょいちょいアマチュア作品で見かけたんだけど、アレ以来で新鮮でした。貞次さん元気にしてるかなー?もう50過ぎてるよなぁ、とか懐かしくなるところですが、ぶっちゃけ、比較にならないくらいレベルが高いっす、桜七は。

重厚なテーマの割に平易な文体ですっきりした読み口で、あとキャラクターもそんなに面倒くさくないのがポイント。だからと言って軽薄すぎるわけではなく、主人公の鮫島も、クソ真面目すぎるわけでもなく、ちゃんと血の通った人間として描かれてるのがすごく良い。ていうか、登場人物多めですが、抑えめな描写でもキャラが立ってるんです。相棒的な藤森とかもすごく良いキャラで、苗字のせいでパーフェクトじゃない方のヒューマンwith眼鏡を思い出すのはアレですが、彼はもっと見たかったなあ、と。
何より、災害発生後の緊迫感がパねえ。これはなかなか凄まじいですわよ。とにかく淡々と状況の変化を描きつつ、それに対して鮫島たちが対処していくという。その中で、時折、空自の偵察機からとか、俯瞰的に災害を描く描写があって、物語のスケール感をしっかり示してるのが良かった。こういうカットが入ると、俄然盛り上がるし大作感が出ますよね。
エンタメ書くなら、文章の些細なとこより、こういうところに気を使うべきだろうと思うわけですよ。こういう作品がもっと増えてほしい。
作品内の経過時間的に、ちょっと北斗の拳的な世紀末化の進みが早すぎるような気もしないでもないですが、そこはご愛嬌ということで。

あと、全体を見回した時の設定にもネタバレしない範囲で触れないといけない。色々思うところはありますが、この設定とサバイバルものの組み合わせは面白い。この手の作品はジュブナイルなアレとかそういうのばかりと思いきや、学校じゃなくコレでしょ。そして、終盤の伏線から、明らかにスケールがめっさデカいよね、っていう。
こう、壮大な物語の序章なんだろうと思うんですけど、この展開はとても良いと思います。ストーリーテーリングは見事としか言いようがない。初期目的のアレがむしろアレでアレなんですよね。



とりあえず、セルパブのエンタメとしては突出した出来だと思います。
こういう作品が日の目をみるようになったのは1人のKDPユーザーとして嬉しいです。同時に、これからもこういう作品がガンガン出れば、KDPひいてはセルパブの未来は明るいと思うんですよ。読者からの信頼も高まるし、注目されるきっかけにもなる。それに良いものが売れる市場って、誰もが求めていたところでしょ?
100円だし、ぜひ読んでほしい。
posted by ヤマダマコト at 14:40| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月31日

勝手にKDP本レビュー★51王木亡一朗「LOST IN CONVERSATION(ロスト・イン・カンヴァセイション)」

そういえば、結構前に読み終わっていたけど、レビュー書いてなかった本があったので。
王木亡一朗さんの「LOST IN CONVERSATION(ロスト・イン・カンヴァセイション)」です。
先に結論から言うと、昨年夏以降に読んだセルパブ本の中ではぶっちぎりで良い作品だと思ったし、これまでのセルパブ本の中でもすごく好み。

王木亡一朗という人物について、リアルで会ったことがないので、イケメンかどうかは分からない。年も離れてはいる。でも、同郷の人間で、同じまち、おそらく同じ風景を見て育った人間ということもあり、作品舞台だけでなく、どこかフレーズだったり表現だったりに「わかる」部分があったりする。
で、作品も全てではないですが、だいたい読んでいるわけです。やっぱり気になるし。
王木さんといえば、自作の表紙やタイトルからほとばしるセンスはひとまず置いておいて、その中身については、意外と堅実な作風というか、そこまで先鋭的な印象はなかったんですよ。今までは。
例えば比較的古い「ブッダブッダブッダ‼︎‼︎‼︎」は、女子高生のバンド活動というテーマで書かれたテンポの良い作品で、クオリティも安定した青春小説でした。しかし、繊細で軽やかな作風とは裏腹に、モチーフや表現の鮮度という点ではやや弱かった。他の作品もそういう傾向があって、私がKDPに参入した頃、王木さんの作風の印象って、私ほどではないにせよ「すごく保守的」だったんですよ。良し悪しの問題ではなく、そういう作品を好む人なのだろうと思ってたんですよ。ぶっちゃけ。
ただ、この2年くらいでどんどん変わってきたんですよね。「ティアドロップ」とか「夏の魔物」の収録作のいくつかからどんどん変化していって、とうとう本作で突き抜けた感じがするんですよね。
そして、王木さんの作品の中でも一際評価の高い(ような気がする)「Our Numbered Days 」で個性を確立して、今回、そこから一足飛びで凄いものが出てきたなと。

で、本作なんですけれど、小学生の仲間たちが、夏休みのある事件をきっかけに大切なものを失うお話。それぞれが大人になってもその喪失感は拭えず、物理的にも精神的にも深い傷として残る中、それでもあがく物語。特に事件の鍵である相沢総一郎を中心に展開していきます。
ノワールっぽい重苦しい世界観もさることながら、複数の時間軸を順を追って、複数の人物から見せるダイナミックな構成がハマった感があります。特に一章から二章への繋がりは見事。個人的にはその二章がすごく好きで、静けさの中に緊張感を保ちつつ、なおかつ章のラストもいい。この部分だけで王木作品の最高傑作だろうと思う。
加えて、とにかく、仕掛けがうまく機能している。人称の使い分けも上手いし、特に一章の執拗な描写もすべて計算づくだと気づいた時には参った、としか言いようがなかったっす。全体を通じて丹念に描かれる喪失感は、エンタメの枠をこえて純文学的な重みがあります。ていうか、エンタメであることに対するこだわりがないのかもしれないな、と思いました。普通に考えればサスペンスやミステリの文脈で語られる物語だし、そこを意識した描写も散見されるんだけど、その割には「ユタカさん」とか、そっち系の描写は抑えめ。サスペンスであれば彼をメインにする方が自然なところを、むしろ、そっちはさらっと流して、メンバーそれぞれの事件後に焦点を当て、心理描写に軸足を置いているのが面白い。結果的に、その微妙な立ち位置がこの作品をオンリーワンにしている感じがする。
世界観が好み、という以上にそのバランス感に驚かされます。

気になるところもないわけじゃなくて、明らかに三章以降は書き急ぎ過ぎだし、ソウイチこと相沢総一郎がものすごく魅力的な一方で、彼以外のキャラクターについてはやや類型的な傾向があったりもする。つまるところ、もっとゆっくりと彼らの再生の物語を紡いだ方が良かった。どう考えても400枚とか500枚で収めていい作品じゃないと思うんです。
要するに、王木作品の中でも荒っぽい面も多いんだけど、それ以上の圧倒的な魅力があるのだと思います。
個人的には、この方向性でもっと突き詰めて欲しい気もする。これだけ重いテーマを軽やかに書き上げるのは、なかなかできないことだし。



とまあ、そんな感じです。長々書きましたが、それだけの作品だということ。
一方で、同郷の物書きとして、めちゃくちゃ悔しかったりもするんですけどね。同じようなアプローチでどうやれば上回れるのか、とかばっかり考えてるという。そもそも、似たようなアイデアがあったとしても、この方向性には進めないでしょうけど。
あんまり悔しくてスルーしたろうかとも思ったんですが、なんか色々と別件でリストアップするにあたり、ちゃんと書き残しておかないといけないだろうなと思い書いた次第であります。
以上。
ラベル:KDP Amazon ミステリ
posted by ヤマダマコト at 22:51| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月21日

勝手にKDP本レビュー★50杉浦絵里衣「鳳凰はかく語りきー東華百貨店物語ー」

というわけで久しぶりのKDP本レビュー。新作だし、ちょうど先日も大正から昭和初期が舞台の物語を読んでたので、同じ時期がテーマというのも縁を感じたんですね。何より、面白そうだった。フラッパーガールシリーズで安心の「杉浦じるし」ですし。
さらに、そのうち、似たような感じで戦前から現代までの短編連作を書こうかな、とか思ってたので、これは読んでおこうと。しかも鳳凰じゃないですが、野鳥が主人公とかイメージしていたのも奇妙な縁だなーと思いました。
そういえば、ちょうどKDPレビュー50本目の節目。最初はなんだっけ、栗見さんの「テスタメント」だった思い出。

つーわけで、この「鳳凰はかく語りきー東華百貨店物語ー」です。うちの近所に東花食堂というえらく不味い飯屋があるのは置いといて、大阪の架空のデパートの創業から現代までを、そのシンボルたる七宝の鳳凰像を中心に、その時代の人物のエピソードを繋ぎ合わせていく物語です。表紙のポップ感とは裏腹にテーマは硬派な感じ。とはいえ、ボリュームはかなり軽めですし、杉浦さんらしい軽やかな文章や描写、テンポの良さでとても読みやすくて面白い。
時間軸を使った人と店の関わりという意味で、戦前のあの人が戦後はああなってた、みたいな展開もありつつ、しっとり楽しめました。人生の悲喜こもごもというか、基本的にすごくハッピーなエピソードばっかりなのが個人的には好きです。
私も嫁さんの実家がそっち方面なんで、あの辺ので雰囲気は分かっているので、すごく身近に感じられた不思議な物語でした。

ただ、テンポが良い反面、少し筆が走り過ぎというか、もっと個々のエピソードの尺をとっても良かったと思うんです。描写もそうだし、むしろ「ウザい」くらいでも良かったかなあ、と。その方が、より劇中の時間の流れが濃くなるし、登場人物に感情移入しやすくなる予感。というか「変わらない鳳凰」と「変わりゆく風景や人物」の対比がキモだと思うんで、そこまで書ききれば凄みが出てきそうな気がする。



あと、関西弁成分は欲しかった。鳳凰視点固定で、すべて関西弁語りとかだったら、それも凄い作品になりそう。ベタベタですけど。
ただ、杉浦さんの作品の中では、ものすごく冷静なとこが面白かった。歪みないほど自分のフェイバリットに一直線なイメージがあったので、こういう物語も作れちゃう懐の深さに感服。
ラベル:大阪 Kindle KDP
posted by ヤマダマコト at 10:56| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする