2019年08月09日

KDP小説「仮想美少女シンギュラリティ」についての考察

というわけで、久しぶりのKDP本レビューはバーチャルYouTuber(VTuberって言うんだっけ)のバーチャル美少女ねむ作「仮想美少女シンギュラリティ」。
実は結構前に読み終わっていて、私の読んだ本の中では、間違いなく今年のKDP小説を代表する作品のひとつになると思ったし、どこかでレビューを書いておこうと思ったけど、なんというか純粋な小説としての書評でいいのかどうか迷ってるうちにプライベートがバタバタしていて書けずにいたという。だいたい自分の作品でアップアップしてるわけでして、そこまで頭が回っていなかった。
ただ、もう上半期も終わったし、そろそろ書かないといけないな、と思いポチポチ書いてみた次第です。
小説のレビューは後半で、前半はその取り組みに対する感想を書いていきます。



とりあえず、バーチャルYouTuberとしての彼女のコンセプトとかはおいて、その取り組み自体がすごいですよね。
私は詳しくないのですが、彼女はそもそもバーチャルYouTuberとしてすでに第一線で活躍しているわけで、その上でKDPを使ってKindleストアに進出してきた。それも「バーチャルYouTuberが書く小説」として、バーチャル美少女ねむの誕生から現在までを、現実とリンクさせつつ、SFとして描くアイデアがすごいな。と。
その時点で、企画力の勝利だと思うんですが、その表紙依頼料やら執筆の諸経費をクラウドファンディングを使ってファンから集め、さらにプロモーションに活用するという。ていうか、ここまで周到に準備してKDPに取り組んだ人見たことねえぞ。
それでもって結果も出ていて、カテゴリーランキングで上位に来ているし、よく見かける。

今までKDP小説書いてる人って受け身だったわけですよ。せいぜいTwitterで宣伝しまくって、人の企画に乗っかって「露出アップ!イエイ!」みたいなもので、ここまで自分のターゲットを分析して戦略的に動く人はいなかったと思うんです。そういう意味でエポックメイキングというか、やっぱ向こうの業界はすげえな、と。これくらいの行動力がないとダメなんでしょうね。人と足並み揃えて「セルパブの今後」とか論じてる場合じゃねえぞ、と。みんな頭使って個々に動いていくべきなんだろう、と。
そういう意味で、「KDP界の黒船」と言って良いと思うんですよ、私は。別にリアディゾンの話じゃないですよ。なんちゅうか、異文化からやってきた黒船っすわ。みんな目覚めろ、と。だいたいさ、ねむちゃんwiki持ってるんだぜ?
多分、これからもこういう動きは加速してくるだろうし、そろそろKDPでも個々の作家が知恵を絞って動かないと、厳しい時期が来たんだろうと思います。いや、マジで。

それで、ここからは小説そのもののレビューなんですけど、ぶっちゃけよく出来ています。ちゃんとSFになっているんです。最初は渡辺浩弐がファミ通で連載してたSF読み切りの「2000年のゲーム・キッズ」っぽい、読みやすい電脳系のエンタメと思いきや全然そうじゃなかった。
むしろ「ISOLA」とか最初期の貴志祐介や「リング」の鈴木光司っぽいテイストがそこはかとなくあって、黒い背表紙の角川ホラー文庫で育った身としては、かなり親近感がありました。「噴火で住めなくなった伊豆諸島の外れの島」って、なんかもうそっち系じゃないですか。
その島の巫女や女神みたいな土着的な話がバーチャルリアリティ、さらにバーチャルYouTuberと絡んで、単なるSFで終わらないスケール感がすごく心地よかった。その凝ったストーリーがちゃんと、現実とリンクしてるのも上手だなと。
ただ、個人的には、最後は土着的な部分が若干弱くなって綺麗にまとまりすぎたというか、SFの枠に戻ってしまった感じが残念な気もしました。もっと伝奇ファンタジーと融合してスケールの大きな物語になるのかと思っていたし、そういうのが好みなんですよね。母親の血筋とか伏線もいっぱいあったし。
ただ、あの含みのある終わり方からして続編がある気もするし、そちらに期待したいです。きっと、もっとスケールの大きな物語になるんじゃないかと。
posted by ヤマダマコト at 20:25| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年05月03日

「東京フラッパーガールlite 浅草ブラン・ノワール」デレなかった!

というわけで、以前にどこかのタイミングでDLしていた杉浦絵里衣さんの「東京フラッパーガールlite 浅草ブラン・ノワール」を読了しました。
あれです。すごいポップな表紙と先の大戦前の昭和レトロな世界観のラノベミステリーという、まさにセルパブを象徴するような人気シリーズの1冊であり番外編というか、そんな感じの作品。



結論から言えばシリーズの中では1番好みでした。
で、これを真っ先に書かにゃいかんのですが、以前に1作目のレビューを描いた時に「デレるの早くね?」って突っ込んで、おそらく杉浦さん本人に不本意な思いをさせたんですよ。あれについては、作者の欲望が溢れすぎというか、こう、バディ物としての体裁をぶっ壊すのが、いわゆるエンタメの文脈よりもかなり早くてびっくりしたんですね。
んで、続編の2は続き物ですが、やはり同じ印象がありました。上海が舞台で1のコンビというかカップルが離れ離れで、片方が上海で事件に巻き込まれる展開なんですが、こういうのって中盤あたりにコンビ復活の盛り上がりを仕込みたいし、それまでは上海ですれ違いが何度もあって、読者にじれったさを感じてもらうのがお約束な感じなんですが、割と早いタイミングであっさり合流してしまいます。
それは良し悪しではなく価値観の違いなんでしょうね。杉浦さんの中では「2人揃ってからが本番!」みたいな。やっぱ、杉浦さん歪みねえな、っていうか、自分の描きたいものを貪欲に追求したんだろうと。おそらく本人も分かった上で確信犯的にやってるんだと思います。だから、こうして一般論で突っ込むのは野暮なんですよ。それは自覚しています。

そんな中で、この「浅草ブランノワール」ですがliteと銘打ってる通りに軽めで、これまでのストーリーの中では短め。しかも番外編なので、基本的に2人の関係性が劇中で変化させられなかったので「デレ少なめ」。その結果、暴走する環お嬢さんと葛葉のツッコミキャラがすごく明確で良かった。というか役回りがしっかりしているので、ミステリ部分に純粋にのめり込める感じ。いや、別にデレるのは悪ではないんですよ。多分、それを楽しみにしているファンもいっぱいいるはずだし、そういう人には物足りないかもしれない。でも、今回はキャラクターの関係性が安定していたので本筋に入りやすかったし、個人的にはこっちの方が好き。
そう考えると、やっぱり確信犯というか、「セオリー?知ったこっちゃねえ」ということなんだろうな、と。もう「昭和初期のライトなミステリ」の皮を被ったフェティシズムの集合体みたいな感じ。その証拠に、杉浦さんのこのシリーズ以外の作品はデレるの早過ぎない。やっぱり、分かった上でやってるんだと。

それと、この軽めでスケールの小さなストーリーが文体やキャラクターに合っているのが良かった。もともと当時の世相や風俗を丹念に取り上げるのが魅力なんだけど、今回、環お嬢さんがお節介を焼く瞳子というもう一人のお嬢さんがいて、その境遇や性格が当時の雰囲気を地に足のついたかたちで表現しつつ環と対比させることで、環自身の魅力を再認識させるあたりがすごく良いし、スケールの小さい事件だからこそ、より細やかな市井の空気が描写できるんだろうと。
それも相まって、なんていうか、私がこのシリーズに抱いていたファーストインプレッションに近い作品だなと。個人的には1や2みたいな作品は数年に一回のスペシャル版にして、このくらいのスケールの作品をいっぱい書いたら面白いだろうなと思いました。



ちなみに1作目はこちら。
posted by ヤマダマコト at 15:16| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年03月12日

竹中由浩さんの「フィッシングライター陽子」感想

気まぐれでKDP本レビュー。本職のフィッシングライターの竹中由浩さんの書いた「フィッシングライター陽子」ですね。竹中さんはリールをテーマにしたエッセイやら色々KDPでリリースする中で、何気に小説も面白いんですよ。「ユキ」、「アキ」とか。もちろん私が釣り好きなせいもあるけれど、物語としても出来がいい。
にもかかわらず、このあいだの「このセルパブ」でもあんまり目立たなかった。しれっと投票したんですけどね。やっぱり文学青年に釣り好きは少ないのでしょうか。
作品の面白さももちろん、こういうワンテーマで強い作家ってすごく魅力的だと思うんですけどね。



本作は短編連作で、フリーのフィッシングライターである小久保陽子さんが、釣り人との交流を通して釣りそのものの魅力に加え、昨今の釣りや河川を巡る社会問題を取り上げていく物語。なんつーか「美味しんぼ」方式?
全部で5話なんですけど、バス釣りの是非から果ては政府の公共事業に対する問題など、何かを声高に叫ぶわけでもなく、陽子とその周囲の人間たちのドラマの中で淡々と描いていくんです。5話全体を通して物語もしっかり動いていくんですよ。問題提起だけでなく純粋にストーリーとして良い感じ。
さすがに本職だけあって読み応えもあるし楽しい。もう少し陽子が物語を通じて変化していくいうなシチュエーションも見たかったけど、今後もシリーズ展開するなら、これはこれで良いのかな、とも思いました。

竹中さんの作品のもう一つの魅力が軽い読み口なんですよね。どうしても気取った言い回しを使いがちなジャンルなんですが、すごく読みやすい。普段、ライトノベルメインの人もすっと入れる軽さは良いと思います。この軽さと、独特の小ネタのはさみ方が作者の味というか、世代とか個人差はありそうだけど、私はアリだと思う。出てくるタレント名の半分は理解できなかったけど。あと、マンガの原作にも良さそうだな、と。ああ、でもハードボイルド釣り小説とかも読んでみたいかもしれない。


あと余談ですが、竹中さんがツイッターにアップする釣果を見るとそわそわする。私は渓流釣りに関しては、あんまりやったことはないんだけど、山に入るのは好きだし、仕事で山奥に行くと、どうしても沢を覗きこんでしまう。
もう少し時間があれば出かけるのに。
posted by ヤマダマコト at 09:53| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする