2018年03月25日

勝手にKDP本レビュー★57松葉紳一郎「虚構のER」

久しぶりのKDP本レビュー松葉紳一郎さんの「虚構のER」。これは結構前からマークしてて、牛野さんだったと思うんだけど表紙のクオリティに驚いてた記憶があるんです。
私自身は血がドバッとするのは苦手なんで医療ミステリ、特に海堂尊系はあんまり好きじゃないんですけど、それでも面白そうだとは思ってたんですよ。
で、今回、某「このセルパブ2018」で某コヲノスケさんが推してて、よし読んだろうかと。

まず、作者は現役の医師です。実際、巻末や著者セントラルでご尊顔が見られますが、本当にドクター的な雰囲気。私のようなゲスい仕事とは違って、誇りをもって仕事をしてる感がうかがえます。

内容は心臓カテーテルのPCI手術の天才で、舞台となる病院の評価を一気に上げた喜多村医師を中心とした群像劇ミステリ。
この喜多村医師に関するある疑惑を中心に、病院内で起きた医療犯罪が明らかになっていきます。軸になるのは「家族」ですね。
1番の見どころはオペの緊迫感と法廷でのやり取りの緊張感。医療ミステリに期待されているところはきちんとおさえていて、さすが本職としか言いようがないし、上手いっす。クオリティ高いです、これ。
あと、序盤は人間関係の描写が淡白で、専門用語が頻出のミステリ部分に比べて弱い気がしたんですが、どんどん濃く広がっていき、ちゃんとバランスが取れているのも見事。
間違いなく今まで読んだKDPのミステリ本の中では自分的ベスト10に入ってくると思います。

あと、物語の構造がすごく独特というかミステリではあまりないパターンな気がする。終盤にこうどんどん謎が枝分かれして枝分かれして、広がっていく感じが新鮮でした。セオリー的には収束するようなところでも、そんな風にはならない。
これだと消化不良になりそうだし、確かにもやっとする部分はあるんですが、このもやっと感がリアルというか、エンタメとしてはもしかしたら賛否があるかもですが、これはこれで大人な感じがして面白いっす。全てがきれいに終わらなきゃいけないものでもないですし。

勿体無いのは中盤以降に出てくる弁護士と探偵。もう少し尺をとって掘り下げた方が良かったな、と。おかげで最大の見せ場がちょっと軽くなってる気がするんですよ。



あと表紙なんですが大阪のデザイン事務所に発注してるんですね。こういうのもアリなのかもしれない。ものすごく高そうだけど。
ちなみにあとがきの自身の経験が面白い。若い当直医の心理とか、ものすごく気になる。
ラベル:Kindle KDP Amazon
posted by ヤマダマコト at 09:04| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月06日

坂東眞砂子「くちぬい」面白かった

というわけで、坂東眞砂子の「くちぬい」。
これはエグい。いつもの坂東的なエログロはないんですが、なかなか面白かった。
個人的に、この人って特に初期の伝奇ホラーが好きで、なんでかっていうと、私好みの厚塗りで饒舌な文章はもちろん、国内の作家でもっともスティーヴン・キング的なことをやれているから、なんですよ。キングフォロワーと言われるエンタメ作家は多いですが、キングのモダンホラーを「アメリカ南部の田舎町のご当地オカルト小説」と捉えた場合、その手法をもっとも理解して、日本の古典的な伝奇ものに落としこんだのは坂東眞砂子なんじゃないかと密かに思っています。
とくに初期キングは、キャッスルロックやデリーなど、敬虔なプロテスタントが多く保守的で閉鎖的な60年代メイン州南部の田舎町というリアルな下敷きを作り上げた上で、そこに怪異を持ち込むわけですが、一方の坂東さんは閉鎖的で過疎化が進む90年代の四国の集落を丹念に描きつつ、そこに息づく怪異を描く。その日常のリアルさがどちらも肝だし、他の国産キングフォロワーはミステリや青春小説に落とし込んで傑作を生み出しても、ここまでキングを踏襲することはなかったと思うんです。おそらく小野不由美さんが例のオマージュで近いことをしているくらい。
一方で、あんまりリアルじゃなかった新潟の方言が気になった傑作「山妣」以降は文章が軽くなってきた感があるのと、さすがに女性の愛欲的なテーマに飽きてきたんで、それ以降はあんまり読んでこなかったんですよね。こう、もっとヤングでナウいものなら読みたかったんですけれども。

んで作品の話。
東京から高知の田舎に移住してきた中年夫婦が、集落の風習を無視したために地域の年寄りとトラブルになるという、それだけの話なんですよね。設定とかあきらかに得意の伝奇ホラーなんだけど、そっちにはいかず、サイコサスペンスに行きそうで、そっちにもいかず。
シンプルなストーリーなんですけど、集落の雰囲気がリアルなのと、夫婦の微妙な空気など演出でちゃんと面白いエンタメ小説に仕上げている感じです。旦那の鈍感ヘタレっぷりも、消防団や公民館での草刈り後の宴会もリアル。集落なら公民館より集会所や公会堂の方がよりリアルな感じもするけれど。
基本的に夫婦と老人たちのトラブル、さらにサブプロットとして役場の若手職員と、かつて巨額横領で刑に服していたじいさんのストーリーがあり、これが微妙に絡み合っていく構造。奥さんの夫への不満やセックスレス的なアレの描写がくどいほどあり、役場の彼に手を出すのかと思いきやそんなこともなく、役場の彼は彼でさして役には立たず、という坂東作品っぽくない展開が面白いっす。
加えて、移住の動機の一つに奥さんが福島第一事故の放射能を恐れて、というのが興味深いです。演出単体としてみたらチープで底が浅く首を傾げたくなるんですが、一方で、意識高い中年女性にありがちといえばそうだし、放射能の不可視の恐怖を集落の目に見えない人間関係が生む悪意になぞらえているというのはいいなかなか秀逸。
あと、「人が過密する都市部の若者がおかしくなる」というのはありがちだけど、「一方で年寄りしかいなくなった田舎も狂い出す」という考察はすごく面白い。私も地方で働き、地方をテーマに小説書いてるけど、そこまで考えが及んでいなかった。
で、電子版のあとがきというか作者の手記を読んで、この作品が実話ベースということに驚きつつ、田舎ならありそうだなと思ってしまったり。



私個人としては、そういう切り口の目新しさやエンタメとして駆使されている小技の数々はとても参考になりました。ただ、後味の悪さからして、賛否がありそうだよな、とも思う。
とはいえ、地方への移住を考えるセカンドライフ世代はぜひ読んでほしいっす。田舎の年寄りの闇が怖すぎるし、なかなかリアルでびびる。
ラベル:Amazon Kindle
posted by ヤマダマコト at 15:25| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月09日

勝手にKDP本レビュー★56吉田柚葉「病まない病」

最近は雪のせいで執筆もブログ更新も滞りがちですみません。おかげで新作の出版を前倒しできるか微妙になってきました。もともと計画なんてどこかでアクシデントがあるのは織り込み済みで立てているので、こんなものだろうとは思っていますが、それにしても一昨年はインフルエンザ、去年はPC故障で今年は大雪。やっぱり2月は鬼門なんでしょうか。

で、吉田柚葉さんの「病まない病」。
ツイッターのアカウントを見る限り、インテリな男性のようです。グーグル検索だと同姓同名のグラビアアイドルが出てきますが、多分、別人。
なぜ手を出したのかわからないけど、購入していました。無料キャンペーンだったかもしれないし、そうではないかもしれない。

純文学的な短編や掌編が並んでいますが、一方でシュール系のホラーテイストだったりエンタメの匂いもする作品集です。
もっとも分量のある(というか本全体の半分以上を占める)表題作はかなりの力作。美咲という主人公にぞっこん(死語?)というか異様な執着を見せる可愛い後輩が、ひょんな事から文才を発揮し、世間を騒がせる若手女流作家となり、それから〜みたいな物語。
そのダイナミックな筋運びももちろんですが、文章が良い。多分、吉田さんはとても頭の良い人なんだと思う。すごく流暢で巧みな文章なんだけど、一方で砕けた言い回しとか下世話な表現を絶妙に入れ込んでくる感じが好きで、時代を感じさせない面白みがある。高校の現代文とかでも不思議じゃない感じのセンス。KDPの純文学寄りの作品といえば量産型ハルキが目立つ中で、このエンタメ性と個性はすごく好き。特に後半の展開はたまらんです。
あと、もう一作あげるとしたら「火牛」。ゆるキャラをネタにしたエンタメ系短編なんですけど、割とベタなオチなんですが、この語り口でやられるとインパクトがあるなーと思いました。



KDP広いっす。面白いものを書く方がどんどん出てくるんだもの。
posted by ヤマダマコト at 10:54| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする