2020年08月04日

山田佳江「白昼のペンタクル」を読んだ

というわけで福岡のフォートナイターな方の山田さんの新作「白昼のペンタクル」を読みました新潟の方のヤマダです。

それにしても山田さんの小説って、いつも思うんですが、こう「現役感」が半端ないんですよね。言葉にするのが難しいんだけど、なんて言えば良いんだろう。登場人物は私と同じで10代20代なんですが、目線がキャラクターと一緒だったり、あるいは作品のテーマや題材、切り口とかすごく「今」を取り込んでくるというか。なんかギラギラしてる、っていうのも違うし。常にエッジの方を見ている、といえば良いんだろうか。

作品解説によると、「ゲーマーとギャルの少し不思議な青春SF小説」的な作品でしたがどちらかといえばファンタジー寄りな気がしました。流行りのセカイ系、とも違う気がする。
私は「ゲーマー」というフレーズから、なんか電脳世界でギャルアバターとなんか色々あるサイバーな感じかと思ったけど違った。まあ、ペンタクルですしね。
中盤までがボーイミーツガール的な感じで進むんだけど、世界の秘密と彼女の秘密が明らかになった時点で、実は全然違う意味を持ってくるんですよね。その展開はすごく面白かった。こう、日常の延長にある異世界とか古史古伝的なネタとかモロにフェイバリットな感じ。
高校生たちの物語かと思いきや、それだけではない広がりもあるし意外な展開に繋がっていく。世界線と時間軸が曖昧な物語でスケールがめっちゃでかい。
テンポがよくて読みやすいんだけど、逆に、設定が複雑で情報量が多い分、余計に集中力を要するというか、私はギリギリラインで読了できた感じで、これは気合を入れて一気に読んだ方が楽しいと思います。
キャラクター的には「ツナさん」というキャラが面白かった。ネットゲームがモチーフのエンタメではお約束なポジションなんだろうけど、微妙にセオリーを外しつつ一人称が「ワイ」なのが、なんか良い。



なんていうか、もっとこの世界に浸っていたいというか、倍の分量でストーリー展開をゆっくりにして個々のキャラクターを掘り下げたりしたら、より私の好みなんでしょうけどね。民族学的な設定も「もっとくれ!」みたいな。でも、それだと古臭いと思われそうだし、逆にこの疾走感が今風で、すごく山田さんらしい気もする。
posted by ヤマダマコト at 12:24| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月20日

KDP本、鈴木千恵子「私と言う女」を読む

私が以前にケータイ小説をやっていたときは、まさに「恋空」の全盛期で、中高生の女の子たちがどこまでノンフィクションなのか怪しい「実話系」のヤンキーとの恋とか妊娠中絶を語った小説が熱狂的な人気になっていた文学評論家や社会学者、サブカル系の識者が色々言っていた時代でした。
ただ、そうした女子が自給自足していく「実話系」の陰では、ひっそりとガチのミステリを公開したり公募狙いの人たちが自作を発表しながらコミュニティを形成していたりするんですよ。あくまでひっそり。私もその辺からスタートした感じです。きっと、今の「なろう」とか「カクヨム」もそんな感じだろうと思う。ユーザーが増えればメインストリームとは別に、こう、色んな人が入ってくる。必ずしも大ヒットとはいかなくても、それでも色んなものが出てくるのは、きっとサービスの認知度が向上した証のひとつなんだろうと思います。
んで、KDP小説のメインストリームって言われてもピンとこないですよね。だいたい商業と一緒に並ぶのでマーケットから傾向が見えてこない。せいぜい、「BLはKDP本が元気だな」とかそんくらいのもの。そういう意味では、アマチュアが小説を発表する場としては異端なんですよね。角川さんのブックウォーカーさんだってインディーズというカテゴリがある。そこがKDPの難しさであり魅力だったりするんですけども。



とはいえ、それでも「KDPも裾野が広がってきたのかな」と思ったのがこの作品。鈴木千恵子さんの「私と言う女〜遠い記憶〜」。
フィクションと銘打ちつつ、半自伝的な回想録形式で昭和33年生まれの女性の半生を描く物語。ていうか、名前や固有名詞以外はノンフィクションっぽい気がする。ケータイ小説の「実話系」とは全然違う。
ちなみに、この作品を知ったきっかけは鈴木さんの方からTwitterでフォローしてくださったこと。割とファンの方にフォローしていただく事は多くて、きっと自作を読んでくださったのかな、と思ったんですよ。昭和33年生まれならうちの母親世代ですし、ツイートもごく普通の主婦の方っぽいし。そうしたら、KDPで小説的なものを出してるわけですよ。めっさ気になるじゃないですか。

本を開いて驚いたのが横書き。なんか久しぶりに見た気がする。内容については、平易な文章でわかりやすく、でも丁寧に書かれていてなかなか「読ませる」内容。子どもの時代のいじめや家族の都合での転居、好きだってテレビスターへの思いや結婚など、すごくストレートに変に脚色することなく穏やかに描かれていて、本人にインタビューしているみたいな不思議な気持ちになる。個人的には芸能人などは実名の方が良かったと思うけれど。そっちの方が同世代の共感を呼べるでしょうし。
ただ、いわゆる高度成長期から今日まで生きてきた女性の、しかも偉人や有名人でもない一般人の人生というのは面白い。人の人生って、それだけでもエンタメなんだな、と実感させられます。特に時々語られる人生観はすごく興味深いです。そんで、旦那さんの持病に痛風があるのがね、おおう、と。
時に軽妙に、でも時にずっしりとくる感じで、特に親への様々な思いは印象的でした。

にしても、こういう作品って昔は地域の文芸サークルの同人誌や市が定期刊行するような文芸誌しか発表の場はなかったように思うんですよ。いわゆる作家志望やビジネス目的ではなく、趣味的に小説やエッセイ、俳句なんかをカルチャーセンターとかで習ったけど発表する人たちは昔からいたんですが、これまでは地元の印刷所などで安い同人誌を作って知り合いに配るしか発表の手立てがなかった。コストがかかるからだいたいグループで。
本来であれば、そういう人たちこそKDPはじめセルパブを活用すべきだと思うんですよね。低コストでより多くの人に読んでもらえ売り上げもあるわけですし。
その意味でも、こういった渋い作品がどんどん増えてくれば良いなあ、と思います。全国の昔から活動されているベテラン同人作家のみなさんのニーズに応えられると思うんですよ、セルパブって。
posted by ヤマダマコト at 12:40| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月19日

ヤマダ氏、小説版「鉄人兵団」を読む

この本、たしか映画のリメイク版に合わせて出版されたと記憶しているんですよ。その時、近くの本屋で見かけて少し目を通して、結局買わなかったんですよね。理由は覚えていないけど。ただ、パラサイト・イヴの瀬名秀明が私の好きな劇場版ドラえもんをノベライズするということですごく興味深いし、いつかちゃんと読もうと思いつつ忘れていたんですよ。
そうしたら、拙作「勇魚神」のレコメンドに出てきて思わずKindle版を購入。よく考えれば、勇魚神はオリジナルの鉄人兵団の影響も少なからずあるわけだから、ちゃんとこちらが読んで欲しいジュブナイル好きに届いたということだろうし、読むきっかけができたのも嬉しかった。



というわけで感想ですが、実は瀬名さんの作品ってデビュー作のパラサイト・イヴの印象が強すぎて、わりと荒っぽいイメージがあったんですよ。で、久しぶりに読んだら随分こなれていて驚きました。あくまで小学校の高学年でも読めるようにしたのかもですが、すごく読みやすい。

内容は映画やコミックに概ね忠実で映画のリメイクよりもオリジナル寄りなんですが、こう小説ならではの良さがすごく出ているな、と。なんとなく「瀬名秀明のドラえもん」といえば、面倒くさいSF解釈がずらずら出てくるのかと思いきや、「SF作家」より「藤子不二雄ファン」の要素が勝って、良い塩梅に仕上がった印象です。
荒唐無稽な児童漫画を精緻な文章でしっかり再構築し、ちゃんと内面も描写したおかげで本格的なジュブナイル小説になっているのもすごい。とくに劇中では一瞬だった「一夜」の部分を丹念に描いて少年少女の内面を掘り下げるあたりは「分かってるね!」と思う。スネ夫の丁寧な描写もいい。土台がしっかりしているからリアリティがある。本当に好きなんでしょうね、ドラえもん。
一方でひみつ道具や四次元ポケットのSF解釈は「らしい」感じ。とくに、巨大ロボ「ザンダクロス」の人工知能にナノマシンによる自己修復機能は今風なだけじゃなくて、物語後半に良い意味で緊張感を与える仕掛けになっていて良かった。
あと、藤子不二雄他作品から来た2人についてはなかなか興味深い起用法だと思った。決して必要不可欠ではないけれど、単なるファンサービスだけ、というわけでもなくて、彼女らはリアルタイムでオリジナルを楽しんだ今の大人たちの代弁者というか、そういう存在なんだろう、と。
posted by ヤマダマコト at 12:41| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする