2018年02月09日

勝手にKDP本レビュー★56吉田柚葉「病まない病」

最近は雪のせいで執筆もブログ更新も滞りがちですみません。おかげで新作の出版を前倒しできるか微妙になってきました。もともと計画なんてどこかでアクシデントがあるのは織り込み済みで立てているので、こんなものだろうとは思っていますが、それにしても一昨年はインフルエンザ、去年はPC故障で今年は大雪。やっぱり2月は鬼門なんでしょうか。

で、吉田柚葉さんの「病まない病」。
ツイッターのアカウントを見る限り、インテリな男性のようです。グーグル検索だと同姓同名のグラビアアイドルが出てきますが、多分、別人。
なぜ手を出したのかわからないけど、購入していました。無料キャンペーンだったかもしれないし、そうではないかもしれない。

純文学的な短編や掌編が並んでいますが、一方でシュール系のホラーテイストだったりエンタメの匂いもする作品集です。
もっとも分量のある(というか本全体の半分以上を占める)表題作はかなりの力作。美咲という主人公にぞっこん(死語?)というか異様な執着を見せる可愛い後輩が、ひょんな事から文才を発揮し、世間を騒がせる若手女流作家となり、それから〜みたいな物語。
そのダイナミックな筋運びももちろんですが、文章が良い。多分、吉田さんはとても頭の良い人なんだと思う。すごく流暢で巧みな文章なんだけど、一方で砕けた言い回しとか下世話な表現を絶妙に入れ込んでくる感じが好きで、時代を感じさせない面白みがある。高校の現代文とかでも不思議じゃない感じのセンス。KDPの純文学寄りの作品といえば量産型ハルキが目立つ中で、このエンタメ性と個性はすごく好き。特に後半の展開はたまらんです。
あと、もう一作あげるとしたら「火牛」。ゆるキャラをネタにしたエンタメ系短編なんですけど、割とベタなオチなんですが、この語り口でやられるとインパクトがあるなーと思いました。



KDP広いっす。面白いものを書く方がどんどん出てくるんだもの。
posted by ヤマダマコト at 10:54| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月26日

勝手にKDP本レビュー★55「デイトリッパー」葛城真実

年明けも色々KDP本を読んでたんだけど、その中で印象深かったのが葛城真実さんの「デイトリッパー」。
そもそも、いつの間にかダウンロードされていたんですよね。結構、前に無料キャンペーンとかでゴチられたのかしらとか、まあ、そんな感じな気がする。

どんな本かもわからず読んだわけですが、良質な近未来SF的な短編でとても面白かったっす。
有害な紫外線なんかが降り注ぎまくって荒廃した近未来を舞台に、16才の女性ライダー・アンが事件に巻き込まれる話。
ストーリーそのものはシンプルだし、世界観もざっくり見ると突飛なものでもないんですが、ディテールが凄く良いんですよね。
「ネヴァダイ」という地名とかドラッグとかサイバーな娼館「ドールハウス」とか。
それ以上にアンというキャラクターがすごく魅力的で、セクシーかつフリーダムに風の中で生きている感じがすごくカッコいい。バイク乗り良いよね、バイク乗り。
というかアンの濡れ場らしきものもあるんですが、全然、そういう気持ちにもならない、っていうか意図的に淡々とさせてる感じがすごくドライでカッコいいっす。でもマニアにはたまんないのかもしれない。私の大学時代の友人にも、冬季オリンピックの女子スピードスケートだけ全部録画して何かに使っている男がいるし。
それはそうとして、全体の雰囲気がとにかくクール&ドライなんすよ。短編だし、別に文章が特別スタイリッシュなわけでもないのに。なんでだろ、と分析したんですが、おそらく会話文だったり、あるいは場面展開だったり、その辺がうまく決まってるんだろうな、と。
ていうか場面の切り替えが上手いんですよね。これ、すごく短い小説なのに全然窮屈じゃなくて奥行きが感じられるんです。



にしても後半の展開はちょっとびっくりした。もっとアナーキーな感じかと思ったら割と「そっち来る?」みたいな。
個人的には、もっとこの世界観に浸っていたかったですね。確かにしっかり奥行きは感じられるんですが、もっともっと長くても良いと思うし、アンはじめ各キャラクターを掘り下げつつ、もっとややこしい物語でも良かったと思うんです。それに耐えうるだけの力強さはあると思うし。終盤のスケールの大きな展開も、長編の方が映えるような気がしないでもない。
posted by ヤマダマコト at 22:51| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月13日

勝手にKDP本レビュー★54「聖者の行進」牛野小雪

牛野さんの小説を久しぶりに読了。おそらく1年近く執筆していた大作「聖者の行進」です。私の中ではルイ・アームストロングだったり、小学校の鼓笛隊で演奏したアレを思い出すんですよ。野島伸司のドラマはあざとくて好きじゃないので見てないのです。
というか、相当気合の入った作品だというのはブログを見てて伝わってきたし、ボリュームも半端なくて、今年最初の読書という意味では、これだろうと。

で、内容なんですが、これがとても要約しにくい。もともと牛野さんの長編って、ロードムービー的というか不可逆的な進み方をするんですよね。おそらく1番評価が高いであろう傑作「真論君家の猫」は、そうでもなくて、主人公たるクールなネコは旅に出ても帰ってくるべきとこに帰ってきて締めくくるんですが、他はそうではないことが多いんですよね。主人公がロケーションを移動するとストーリーが切り替わり、登場人物も入れ替わっていく傾向がある。それはターンワールドだけの話ではなくて、短編とかもそういう傾向がある気がする。
そして、その変わった構造にドライな文章や独特のセンスが加わって唯一無二の作風になっているのが、この作者の最大の魅力だろうと思うんですよね。
今回はそういう意味では、やっぱり、その傾向は強く感じられる一方で、物語の軸として「まさやん」という存在を置くことで、そこから脱却しようとする意図が感じられるんです。ある意味で、まさやんこそ、これまでの牛野長編の主役ポジションという印象。彼と関わった人間はどんどん変質、あるいは死んでいく。そして、その存在が大胆不敵というか、中盤以降は人ですらなくなる。

ストーリーそのものはシンプルで、前半はサイコパス的連続殺人犯「まさやん」と彼を追いかける刑事タナカの物語。で、その2人の邂逅をきっかけに一気にストーリーは動き出します。まさやん半端ねえっす。アジテーターとしての才能を発揮して、ネットなんかを活用し、人々の悪意を増幅させていくんですよ。その部分は浦沢直樹の「MONSTER」のラスト、あるいは、そのネタ元になったスティーヴン・キングの「ニードフル・シングス」を彷彿とさせつつも、個の繋がりではなく曖昧模糊とした群衆を相手に、今時のやり方でやるのがすごく面白かった。
結果、現代日本の秩序は崩壊し、力が支配する世紀末的な混沌の世界になります。北斗神拳の出番的なイメージ。そこから群像劇的な展開になり、混沌とした世界で、強者に従い生きる者や、混沌の中に秩序を見いだす人、希望を求める人を描いていく展開になります。その世界において、まさやんがどうなっていくのかが見どころ。
前半は、あくまでノワールだったりモダンホラーなんだけど、後半は聖書だったり神話の世界を意識した非常に観念的な話になるのが面白く、そして、まさやんという存在もどんどん観念的になっていく。ユリとナツミのくだりはまさにそれ。ひたすら死体を埋め続けるタクヤの最後もそう。この善悪を超越したドライさも牛野さんっぽい。
で、冒頭の不可逆的な部分については、良い意味で予想を裏切られるというか、着地点がしっかりしているんですよね。不可逆なのは間違いないです。まさやんが呼び込んだ秩序の世界の終焉のあと、混沌の中に新しい秩序が生まれたとは言いにくいですし。ただ、投げっぱなしにはしていない。その辺は、牛野さんが意識的に取り組んだ部分じゃないかな、と。
おそらく聖者の行進というタイトルも、そうした観念的な部分を形にしたんだと思います。

あと目を引くのはバイオレンス描写。
私はお上品な人間なので血がドバッと出るのが苦手なんですが、かなりやばかったです。病院の待合室で読んで意識が遠のきそうになったりしました。とくに序盤。どんだけ股間グサグサ刺されてんねん、っていう。いわゆるお約束的な、ねっとりとした描写も前フリもなく突発的に来る。しかも日常と地続きの淡々とした描写というのがキツイっす。最近だと「粘膜人間」の飴村行に似てる気がする。あの拷問シーンの「そばが出たぞー」のような狂気はないですが雰囲気は似てるかも。ナツミやチャーリーの超人っぷりは粘膜人間の弟くんを彷彿とさせましたし。後半には慣れるし、非日常が舞台ということもあり、かなりマイルドに感じるんですけど、前半はなかなかハードル高め。
賛否はあるだろうし、個人的にしんどいけれど、ありだと思う。面白いし作風にはマッチしていると思います。もともと、そういう要素はあるんですよね。猫の仲間たちが野良犬にベロンと皮を剥がされたり、リストカットで血が吹き出したり。その延長線として悪くないし、実はこの路線は魅力があるんじゃないかと。
むしろ、この路線メインでやっていくべきなのかもしれない。読者から見ればアイコンとして分かりやすいし、いい意味で「金の匂い」がする。私の中では、牛野さんは純文学寄りの人なんですが、その中でもバイオレンスをどんどん押し出していって欲しい。多分、成功する。

逆に難点もないわけじゃないです。ボリュームに振り回されたのか、これまでの作品に比べて、やや人物描写が記号的に感じるんですよね。それはネーミング的にも「まさやん」だけがイレギュラーなことを考えれば意図的なんでしょうが、あまり上手く機能していないんじゃないかと。
加えて、意識的に神視点を使ったんだと思いますが、そこまでの効果はなかったような気がする。結果的に登場人物が増えた一因だった気もするし。とくに、まさやんの視点というのは避けても良かったかも。よりミステリアスになった気がする。序盤の、まさやんに救いを求めるコンビニ店員さんとかムチャクチャ面白かっただけに惜しい。逆に後半のラーメン屋のシーンはなくても良かったかも。かも。
というか、前半と後半でもっとキャラクターを一本化できたら良かったのにな、と。とくにタクヤは、後半は生き延びるのに精一杯で仕方なかったと思うんですけど、ふとした時に平和だった時代を振り返ったりもしただろうし、逆に平和な頃に、もっとストレートに「秩序なんて滅びてしまえ」と妄想したと思うんです。その「平和な時代に混沌を願う」という行為と、その結末を終盤に対比させたりしたら主題がぐっと深まるんじゃないかと。
結果、地続きの話なのに、以前と以後ですごく分断を感じたんです。これも意図的なのかもしれませんが、私はもっと繋げた方が良かったと思う。そうでないと読者には分かりにくいんじゃないかと。



そうした点も踏まえ、完成度については、牛野さんのこれまでの作品の中では決して高い方ではないと思う。少なくとも、エンタメとしては「真論君」の方が出来は良いし、オリジナリティや純度の高さではおそらく「ターンワールド」の方がずっと上だと思うんです。
ただ、熱量や見所の多さでは、この「聖者の行進」はその2作を間違いなく圧倒している。牛野さんの代表作になってもおかしくない。
確かにグロいし悪趣味なシーンもあって、私も読むのやめようか迷ったし、読了直後には、どう評して良いかわからなかった。ただ、こうして思いついたことを書くだけで、これだけ書けるというのが、この作品の魅力なんじゃないかと思うわけであります。以上。
ラベル:Amazon KDP Kindle
posted by ヤマダマコト at 23:01| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする