2018年09月11日

勝手にKDP本レビュー★62 斎堂琴湖「舞台女優」

まあ、あれですわ。すごく面白かったです。
斎堂琴湖さんの「舞台女優」。これはKDP本の個人的オールタイムベストを選ぶとしたら、候補に上がりそうな作品です。
元々、斎堂さんの作品は、長編ミステリの「箱庭の花」がすごく面白くて、「月下迷夢」とかもなかなか良作だなあ、と思ってて、密かにチェックはしていたんですよね。どちらかというと長編が面白いイメージ。
んで、「箱庭の花」については学校を舞台にした先生が主人公のミステリだったんですが、とにかく、ストーリーの組み立て方が上手くて、「分かってる人だな」という印象をすごく受けたんですよ。キャラクターも個性的で、しかも掘り下げも良かった。

けれど、今回の「舞台女優」はもっとエエぞ。
「箱庭の花」は人間ドラマ重厚さとトリックのギャップが少しだけ気になったんですが、これは最初から最後までパーフェクトなストーリー。
内容は、15年前に引退した大女優・羽柴塔子を中心とした芸能界のある人間関係の中に、羽柴と奇妙な縁のある主人公、零細出版社の営業担当・梨本有理が巻き込まれていく物語。
突然、電車内で響く着信音から始まる完璧な導入から、読み進めていくと約5分おきに意外な展開が起きる感覚で、どんどん続きが気になって読んでしまうんですよ。テンポもよく自然な展開の中で、思いもよらないハプニングや予想の展開が次々出てきて、これが止まらない。すげー面白かった。
その辺りの技術がすごいんですが、さらにミステリとしても良くできていて、このノンストップな展開の中で、ごく自然にどんどん伏線やらミスリードを仕込んでいって、クライマックスに持っていくという。
この辺はもう読者の視線を読み切ってコントロールしているというか、うまく遊ばれてる感じがする。誰もが驚くような叙述トリックの大技かますのも良いですが、こういう細かい気配りで読ませる技術って、むしろ、すごく高度で難しいと思うんですよ。

エンタメはキャラさえ良ければ大体の失敗はごまかせるくらいキャラクターが重要なんですが、これも良い仕事なんですね。
魅力的なキャラクターでぐいぐい引っ張っていくタイプではなくて、どんどん感情移入させていくタイプ。主人公の有理はもちろん、羽柴塔子も、その運転手の小原も石田課長もみんな良いキャラ。奇抜な設定はほとんどないんですが、劇中で丁寧に掘り下げて人間臭さも感じさせて、生き生きしてくるんですよ。心理描写も巧みで、これはNHKでも民放でも連続ドラマにしたら視聴率とれそうな気がするんだけど。
ちなみに、私の脳内では、なぜか石田課長は森本レオ、小原氏はブルゾンちえみのバックの兄ちゃんの派手な方に変換されていました。どうでもいいけど。
人物以外の描写も巧みで、劇団周辺を含む芸能界の雰囲気とか、良くできてると思うし、有理の仕事ぶりもリアル。そういった地に足が着いた描写があるからこそ、大胆なギミックも生きてくるんだなと。締めくくりも見事。舞台劇の脚本みたいに小粋で、単なる暗喩もこれだけ綺麗に決めるとカッコいいな、と。

これは嫉妬もないですよね。自作と比べてちょっと凹むけど。だってみんな良いんだもん。降参っていう感じ。
これはもうプロットの時点で相当な精度でストーリー組んでるわけで、途中でズレることも許されない。あるいは後から丁寧に調整してるんだろうか。いずれにせよ、さり気ないんだけどすごく手間のかかる高度なことをやってるんですよ。私には無理。
強いて文句を言うなら、「表紙がおとなしすぎねえか?」くらい。これはもっと押しが強くても良いと思う。ていうか、ランキング見てても、もっと売れていなきゃいけないでしょうよ。

「とはいえ、ただの人が死ぬだけのミステリなんでしょ?地味じゃね?」っていう人もいるかもしれない。でも、普通の醤油ラーメンだって、店によって味が全然違うし、そのシンプルな一杯に込められた思いや仕事量も違うっしょ。それが評価に繋がるでしょ。だから「舞台女優」をただのミステリだと思う人は回れ右でよろし。違いの分かる錦織健みたいな男になって出直しといで、と言いたい。ていうか読めば誰だって分かるし楽しめると思うんですけどね。斎堂さんはすごく気配りしてるし。



そもそも2014年リリースですからね。私もずっとスルーしてたのは不覚だし、今更こんなん書いているのも逆に失礼な気さえする。これだけの作品ですし。
私もこの3年半でそれなりにKDP本読んでますが、まだまだ読んでない作品はたくさんあるし、きっとこういう埋もれた傑作もたくさんあるんでしょうね。業が深いというかなんというか。
なんで、まあ、ぜひ読んで欲しいです。たった300円だぜ。これで。
posted by ヤマダマコト at 11:45| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月03日

勝手にKDP本レビュー★61 Fanta miste「少女サイクロプス」

さてさて、某王木レディオが注目される中、なんとなく2日連続レビューいってみますか。こちらはひっそり。
というわけでFanta misteさんの「少女サイクロプス」。
これを読むきっかけは「金色天化」の類似作品がないか、とストアを漁ってた時だったような気がする。で購入して冒頭読んで「これなら被らない」と安心して積んでたんですね。
表紙の眼帯の子がモロ自作と被るんじゃないかと不安になったんですよ、確か。



内容はシンプルで、怪しげな組織「教会」で生み出された超人2人によるタイマンバトルもの。サイクロプスこと眼帯の少女サキちゃんが組織を抜けた弟分と戦うという感じ。
とにかく、ストーリーそのものを「バトルをいかに盛り上げるか」の舞台設定として割り切ってるのが潔いというか、少年マンガの読み切り作品っぽいですね。
ストーリーについて語るべきことは特にないですが、バトルそのものは心理描写が緻密でなかなかスリリングで面白かったっす。
個人的には、長編向きの題材かなとも思いますし、マンガにしたら面白そう。

それ以上に、こういう小説って好きなんですよね。セオリーとか気にせず好きものだけを全力で描き切る感じというか、こう作者の趣味が全力な感じは気持ちいいです。
セルパブって、そんなに息苦しく取り組んでいくものではなくて、好きなものを書いて発表すればいいやん、っていうか。

いや、でも長編化はして欲しい。この世界観でじっくり書いたものを読みたいぞなもし。
posted by ヤマダマコト at 19:15| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月02日

勝手にKDP本レビュー★60halom「8月32日」

「このセルパブ2019」も発表されたことだし、何かの参考になればとセルパブ本のレビューもちょっと頑張ってみるかもしれない。

今回はhalomさんの「8月32日」。
J-POPっぽいタイトルと爽やか表紙とは裏腹にSF短編でした。ていうかいつの間にかDLしてたんですよね。買った気もするし無料キャンペーンで落とした気もする。
まあいいや。ストーリー的には、「ある日、自我を持ったAIが人類に対してクーデターを起こす」的な、もうベッタベタな展開。この40年間でうんざりするほど見たヤツ。
ただ、そこから徐々に独自色が出てくるんですよ。VR系のネットゲームが出てきたりするのは、昔、スーファミとかメガドラとかPCEなんかのテレビゲーム全盛期のファミコン通信だったかヒッポンスーパーに載ってた渡辺浩弐の読み切りSF短編のノリで、しかも、なぜかAIが求めたのが「夏休み」。
そこから先の展開は割と予定調和というかひねりはないのですが、サイバー感がほとんどなくて、やけにサイダーに存在感があるひと夏のボーイミーツガールになってしまうという。

なんと言えばいいか、アフタヌーンの読み切りにありそうな感じもするし、そんな不思議な小説。すごく読みやすくて面白かった。爽やかだし。
個人的には、こういう肩肘張らずに読めるSF系エンタメは好きです。ラストもキレイだし。
もう少し終盤に一波乱あっても良いかもな、と思いつつ、こうVRやAIに対する捉え方の優しさが印象的でした。



この時期にぴったりかもなんで是非。
posted by ヤマダマコト at 13:53| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする