2020年03月11日

水谷広「セーブ→ロード→」が面白かった

久しぶりの読書感想文。なんつーかKDP本ですね。水谷広さんの「セーブ→ロード→」。



いじめられっ子の中学生がひょんなことから見つけたPCゲームが、自分の人生をRPG的にセーブ&ロードできちゃうという優れもの。そいつをタイムリープ的に駆使していく中で、とある少女に出会って、みたいな物語。
いわゆる「世にも不思議なアメージングストーリー」的な不条理系のモダンホラーっぽいんですが、すごく良くできていて面白かった。この作者さんはプロフィール見るに短編やSSの方が得意そうで、実際に文章の軽さやアイデアは短編向けなのかな、と思うんですが、喧嘩のシーンの繰り返しとか「間」や「余韻」もしっかりとれていて良かったです。
KDPも探せばまだまだ面白い人がいるなあ、と思いました。短編の「死にたいママと死にたいあたし」も良かった。なんていうか、初期の日本ホラー小説大賞受賞作っぽい味わいがあるんですよね。
こういう繰り返す系のネタって、どうしても単調になりがちなんですが、ちゃんと物語に動きを持たせられているので飽きることもなくて、よく考えてるんですよ、すごく。

でも、セーブ&ロードが起きたタイミングをセーブデータと共にもっと分かりやすくした方がスリリングになりそうな気がした。特に終盤の絶体絶命なところ。
あと、これは私の好みですが、最初のロードの瞬間とかもっと心理描写が濃い方が良かったかなあ、とも思いました。
完全に私の趣味ですけど。
というわけで、興味のある方は是非是非。
posted by ヤマダマコト at 12:31| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月26日

このセルパブ2020出たってよ

まずは1日に開催予定だった阿賀北ノベルジャム発表会が新型肺炎のおかげで延期。マジか。

そんなこんなで、本題に入ります。このおっパブ、じゃなかった「このセルパブ」こと「このセルフパブリッシングがすごい!」2020年版が遂にリリースとなりました。



率直な感想としては、今回はとにかく多彩ですごく良かった。ランキングも作品も参加者もそうですが、今までで1番オープンな気がする。
話題の人もいれば人気作もあって、現在のセルパブ市場では無視できない規模で盛り上がるBL勢もちゃんと入っているし。
実際に「このセルフパブリッシング」と銘打って全網羅を謳うなら、もっとBLの人が参加しても良いと思うんだけど、今回はこれでも凄いと思う。藤崎編集長ご苦労様でした。

インタビューも今回は個性的なメンツで面白い。ヘリベさん、ていうか今は杜さんか。相変わらずだなあ、と思うし、すごくインタビューは面白い。藤崎さんの寿命とトレードオフな感じもするし、最近、セルパブ入った人にとっては「なんやねんコイツ」かもだけど、小説は凄いものを書く人なんで、興味があったら是非是非。
一方のバーチャル美少女ねむさんのインタビューも面白い。まさに異文化衝突的な感じ。こういう人にはどんどんセルパブを盛り上げて欲しいです。ネットコンテンツに対する取り組み方は見習うべきところがすごく多いと思います。
あと糸魚川さんは安心の進行で過去3回の流れを汲む感じでほっとしますし人柄が窺えて良かったです。今度、作品を読んでみようと思いました。

で、この企画そのものについては次回もやるそうですが、個人的にはようやく形になってきたと思うんですよ。今回、異文化が混じり合って本来あるべき姿になってきた感じがします。だから、もっと続けて欲しい反面、このまま続かないんだろうな、という気もする。
セルパブ自体がどんどん拡大しているし、人気作家が増えてくれば商業に対する「セルパブ」というカテゴリー分けが、少なくともストア利用者にとっては無意味になってくると思うんです。
そうなったときにどうするか。個人的には逆に規模を縮小して究極の内輪企画にしても良いと思ったりもするし、ジャンルで細分化したり、本ではなく作者にクローズアップしても良いと思う。
ただ、ベストなのは、その時が来たら藤崎さんがあっさり見切りをつけて終了することなのかもしれない。
なんていうか、藤崎さんには作家であって欲しいという気持ちがすごくあるんですよ。こんなことしてる場合じゃないだろ、というか作品で盛り上げる側に回って欲しい気がする。

まあ、そんな感じです。
そうそう、私の方は金曜日夕方から勇魚神第3部の無料キャンペーンをやるんでシクヨロです。いや、ここに自作のアフィリエイトリンク貼るような野暮なことはしないですけどね。
posted by ヤマダマコト at 22:57| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月09日

KDP小説「仮想美少女シンギュラリティ」についての考察

というわけで、久しぶりのKDP本レビューはバーチャルYouTuber(VTuberって言うんだっけ)のバーチャル美少女ねむ作「仮想美少女シンギュラリティ」。
実は結構前に読み終わっていて、私の読んだ本の中では、間違いなく今年のKDP小説を代表する作品のひとつになると思ったし、どこかでレビューを書いておこうと思ったけど、なんというか純粋な小説としての書評でいいのかどうか迷ってるうちにプライベートがバタバタしていて書けずにいたという。だいたい自分の作品でアップアップしてるわけでして、そこまで頭が回っていなかった。
ただ、もう上半期も終わったし、そろそろ書かないといけないな、と思いポチポチ書いてみた次第です。
小説のレビューは後半で、前半はその取り組みに対する感想を書いていきます。



とりあえず、バーチャルYouTuberとしての彼女のコンセプトとかはおいて、その取り組み自体がすごいですよね。
私は詳しくないのですが、彼女はそもそもバーチャルYouTuberとしてすでに第一線で活躍しているわけで、その上でKDPを使ってKindleストアに進出してきた。それも「バーチャルYouTuberが書く小説」として、バーチャル美少女ねむの誕生から現在までを、現実とリンクさせつつ、SFとして描くアイデアがすごいな。と。
その時点で、企画力の勝利だと思うんですが、その表紙依頼料やら執筆の諸経費をクラウドファンディングを使ってファンから集め、さらにプロモーションに活用するという。ていうか、ここまで周到に準備してKDPに取り組んだ人見たことねえぞ。
それでもって結果も出ていて、カテゴリーランキングで上位に来ているし、よく見かける。

今までKDP小説書いてる人って受け身だったわけですよ。せいぜいTwitterで宣伝しまくって、人の企画に乗っかって「露出アップ!イエイ!」みたいなもので、ここまで自分のターゲットを分析して戦略的に動く人はいなかったと思うんです。そういう意味でエポックメイキングというか、やっぱ向こうの業界はすげえな、と。これくらいの行動力がないとダメなんでしょうね。人と足並み揃えて「セルパブの今後」とか論じてる場合じゃねえぞ、と。みんな頭使って個々に動いていくべきなんだろう、と。
そういう意味で、「KDP界の黒船」と言って良いと思うんですよ、私は。別にリアディゾンの話じゃないですよ。なんちゅうか、異文化からやってきた黒船っすわ。みんな目覚めろ、と。だいたいさ、ねむちゃんwiki持ってるんだぜ?
多分、これからもこういう動きは加速してくるだろうし、そろそろKDPでも個々の作家が知恵を絞って動かないと、厳しい時期が来たんだろうと思います。いや、マジで。

それで、ここからは小説そのもののレビューなんですけど、ぶっちゃけよく出来ています。ちゃんとSFになっているんです。最初は渡辺浩弐がファミ通で連載してたSF読み切りの「2000年のゲーム・キッズ」っぽい、読みやすい電脳系のエンタメと思いきや全然そうじゃなかった。
むしろ「ISOLA」とか最初期の貴志祐介や「リング」の鈴木光司っぽいテイストがそこはかとなくあって、黒い背表紙の角川ホラー文庫で育った身としては、かなり親近感がありました。「噴火で住めなくなった伊豆諸島の外れの島」って、なんかもうそっち系じゃないですか。
その島の巫女や女神みたいな土着的な話がバーチャルリアリティ、さらにバーチャルYouTuberと絡んで、単なるSFで終わらないスケール感がすごく心地よかった。その凝ったストーリーがちゃんと、現実とリンクしてるのも上手だなと。
ただ、個人的には、最後は土着的な部分が若干弱くなって綺麗にまとまりすぎたというか、SFの枠に戻ってしまった感じが残念な気もしました。もっと伝奇ファンタジーと融合してスケールの大きな物語になるのかと思っていたし、そういうのが好みなんですよね。母親の血筋とか伏線もいっぱいあったし。
ただ、あの含みのある終わり方からして続編がある気もするし、そちらに期待したいです。きっと、もっとスケールの大きな物語になるんじゃないかと。
posted by ヤマダマコト at 20:25| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする