2017年11月07日

映画のITを観てきた話

実は映画も結構な本数を年間に観るし、映画館に行く頻度も普通よりは高いと思うんですが、よほどのことがない限りは触れたりしないんですよね。

とはいえ、今回の「IT/それが見えたら、終わり。」は別格。
何と言っても、あの「IT」の映画化ですからね。スティーヴン・キングの代表作の一つであり、最高傑作の有力候補でもある大作ホラー小説。文庫でも分厚いのが4冊で、日本語訳の原稿用紙換算で気が遠くなりそうな圧倒的なボリュームで、傑作なのにキング初心者にはオススメしにくいあの「IT」ですよ。まさに電子書籍にうってつけのタイトルと言えなくもないですけど。
日本語版は私が中学生の時にハードカバーが出た記憶がある。英語習いたてのころ。実際に読んだのはもっと後で文庫でした。

アメリカ南部の架空の町、デリーを舞台に子どもたちが30年周期で現れる怪物ペニーワイズと対決する物語で、1960年ころの少年期の対決と、ペニーワイズが復活する1990ころの壮年期のふたつの時間軸で進むわけです。
普段から学校の最下層カーストにいるいじめられっ子で、それぞれ吃音や肥満、家庭内暴力などに悩む「はみ出しクラブ」の子たちが、たまたまデリーの歴史に30年周期で現れるヤツ(IT)の存在に気付き、立ち向かうのが少年期の物語。一方、ヤツの復活を知ったはみ出しクラブの面々が、それぞれ大人になってからデリーに再結集し、再び立ち向かうのが壮年期。
壮年期の方は今回は触れられていませんが、ハゲ散らかしてたり旦那のDVに悩まされてたり、同窓会的でそれはそれで面白い。アイツはイケメンで大成功な人生を送ってたりね。
原作では、それぞれの時間軸を、それぞれのメンバーの視点で描いていき、1960年に何があったのか、そして大人になってすべき事とは、を明らかにしていきます。
このペニーワイズこそ、お馴染みのピエロなんです。あまりにもピエロで有名ですが、その本質は「無貌の怪物」。見る人間によって姿を変えて襲ってきます。
このピエロの元ネタは70年代にアメリカを恐怖に陥れた連続殺人犯のジョン・ゲイシー。ピエロの姿になることが多く「殺人ピエロ」と呼ばれたヤバいシリアルキラーなんですよ。要するに、キングが作品を発表した当時のアメリカ人がもっとも恐れた姿という、ちょっとメタフィクション的な演出だったりするのです。
で、このペニーワイズは、子どもたちが1番見たくない姿で襲ってくるわけです。ピエロはもちろん、オカルト雑誌で見たオオカミ男から当時アメリカに輸出されていたと思しき東宝の怪獣「ラドン」まで様々。あとジョーズにもなります。もう、ホラーの百貨店状態。なんでもあり。ペニーワイズというのは、子どもが大好物で、特に子どもの恐怖心が好きななんですね。
そうした人の潜在的な恐怖心に訴える描写に加え、当時のアメリカの学校や家族関係を鋭くえぐる描写だったり「はみ出しクラブ」の面々のジュブナイル的成長物語だったり。さらに、「もっとも恐ろしい恐怖とそれに立ち向かう方法」と「子どもと大人の境界線」だったり、様々な要素を盛り込みながらめちゃくちゃ面白いストーリーにまとめた作品で、個人的にはアメリカ文学の金字塔であると言っても過言ではないと勝手に信じてます。

ちなみに映像化は2回目で、90年代に連続ドラマになり、私はNHKで見た覚えがあります。「スティーヴン・キングのIT」みたいなタイトルでした。こっちの方が有名ですが、原作信者としては、あまり、というか思い出したくないというか、忘れたい出来だったんですね。そこまで酷くないけど、ITを単なるチープなホラーにしちゃっただけというかB級臭いというか。
で、今回の映画は、この長大な原作を、少年期の第1部と壮年期の第2部に分け、今回、レビューするのは第1部ということになります。

結論から言うと、非常に良かったと思います。
ホラーとして見た場合には、原作はもちろん、あのドラマ版にも劣る部分があるのは否定しません。「相手の怖がる姿で出てくる」という設定を生かした錯覚や悪夢のような不条理なペニーワイズは影を潜め、とにかくピエロの力押し。ひたすらピエロ、みたいな感じです。こう「デリーの歴史の裏に潜む魔物」というより人食い怪人のイメージが強くなっちゃった。不気味さが消えた分、血が吹き出たり腕がちぎれたりのグロ描写と、びっくりどっきり系の演出で推していく感じ。力押しのホラーですよね。好きな人は好きかもですが、ペニーワイズっぽくないしB級臭い。
この部分をもうちょっと工夫できれば良かったとは思う。リトルグレイとかモスマンとかね。いや、そんなん出ても困るけど。

けれど、それを補って余りあるのがジュブナイルストーリーとしての完成度。はみ出しクラブ(ルーザーズクラブ)の面々の描写は見事で、ドラマ版がこの部分を切ってホラー押しで失敗したのに対して、こっちは丁寧な描写や演出、さらに魅力的なキャストで素晴らしいものに仕上げているなと。説明はなくとも状況や感情が痛いほど伝わるシナリオ、キャスト、カメラワークのどれもが良いっす。ベヴァリー可愛いし、ベンも可愛い。
この部分だけでも、キング原作の「スタンド・バイ・ミー」に勝るとも劣らないクオリティーだと思う。ドラマでカットされたアレやこれも入ってるし。
この映画で、今更ながらに「IT」は、ホラー要素の改変ごときで色褪せるものではないと気づかされました。これは紛れもなく「IT」だと思います。
ドラマ版ファンから見たら、「怖くない」という声が上がるかもしれないけど、原作ファンとしては、こっちの方が絶対に上。それは絶対の絶対。

ホラー以外に欠点がないわけじゃないんですよ。今回は88年が少年期の舞台で、音楽も当時のアメリカのナンバーなんですが、石合戦の曲がなんとも合ってなかったり、ラストのアレはちょっと可哀想じゃないか、とか。
でも石合戦はドラマでは扱いそのものがおかしかったし、どれも些細な点だし。

んで、続編というか壮年期は2019年9月公開だそうですが、そっちの出来次第ですよね。ドラマ版も少年期はそこまで悪くなかったわけだし。とりあえず、当時と違ってCGもあるし、クモの悲劇は回避できそうですが、懸念もあります。
一つは、今回の少年期で気になったペニーワイズ退治の改変。原作では「子どもの想像力で退治できる」だったと思うんですよ。だから銀玉鉄砲でしたが、今回はベヴァリーの台詞で分かるように少し変わってる。結果的に退治の方法もアレだったんですが、これって壮年期の意味合いが全然変わっちゃうんじゃないかと。
あとは、ドラマ版で当たり前のようにカットされた、あの記憶の彼方に消えたイニシエーション的なアレですよね。色々物議を醸し、特に女性ファンが批判的なアレですが、個人的には必要だと思ってます。
ペニーワイズの仕掛けた1番の恐怖に立ち向かう行為であり、少年期の終わりでもあって、あのイニシエーションこそが、「IT」を単なるホラーで終わらせない部分だと思うんですよ。
今のご時世からして、レーティングしても難しい気もするんですけど、今回の流れだと、ちゃんとやってくれそうな気もするんですよ。だってラストのアレはアレってことでしょ?



そんなこんなで映画は見にいくべきだし、kindle版も出ているので、読もうぜ。
posted by ヤマダマコト at 17:05| Comment(0) | 映画レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月06日

無料キャンペーン結果などなど

そういえば、天化爛漫の無料キャンペーンの結果ですが、ざっくり言うと3日で200に届かねえぞ、っていう。
過去最高が団地のナナコさんだったりするあたり、あんまり有料販売や既読KENPとの相関関係は少ない気もするんで、あれなんですけどね。ていうか、以前なら400とか500に届きそうなものですけどね。
ただ、その後の販売や既読KENPは順調なんで、まあ、上々の結果と言えなくもないっす。



今は、ひとまず次作の短編に集中してます。
2本入りで100円とか150円とかで買える手軽な感じのものです。前回もちょっと触れましたが、1本目の「魚(いよ)」は割と大詰めまで来た感じ。

そうそう。今回は、短編ながらしっかりプロットを立ててるのがポイントかも。
基本的に短編ってプロットを立てないことが多いんですよ。ライブ感というかアドリブの妙みたいなものを求めていたんですね。
スティーヴン・キングもプロット否定派だったりするし。なんかカッコいいし。
ただ、今までの短編執筆を振り返ると、途中でボツになったり、詰まったり、何度もリテイクしたりで全然効率よくないんですよ。「怪物少女フォーエヴァー」とか「ピーカブー!」とか、あの辺はめちゃくちゃ苦しかったんです。秋編はミステリ1本ボツにして、春の「ほうき星」は、昔書いたものをリメイクしようとしたが使い物にならず同名の新作を書き、夏編は2本ボツになり、やぶれかぶれで「鳥葬」を書いた。
別に公募ならいいんですが、予定通りにいかないことって、セルパブでは無茶苦茶デメリットになるのです。テンポよくリリースしないとなかなか生き残りが厳しいのですよ。
で、今回は試験的にというか、初心に帰り短編も面倒臭がらずにプロットを立てていこうと。読み返した感触としては、そんなに変わらないですよね。プロット自体はアドリブで組んでるわけですし。一手間ですが、こっちの方が絶対に早いな、と。長編ほど劇的には変わらないですが、効率は上がってます。
なんとか年内に間に合いそうなのも、この方法だからだと思います。多作が求められるセルパブでは、効率はマジで重要だなと。
ていうか、キングだってプロット立てて書いたデッドゾーンは凄く出来がいいじゃんすか。

あと、リブート版ゴーストバスターズの話でもしようと思ったけど、今更感があるのでやめときます。IT観たい。
ラベル:KENPC Amazon 短編
posted by ヤマダマコト at 11:59| Comment(0) | KDP | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月31日

勝手にKDP本レビュー★51王木亡一朗「LOST IN CONVERSATION(ロスト・イン・カンヴァセイション)」

そういえば、結構前に読み終わっていたけど、レビュー書いてなかった本があったので。
王木亡一朗さんの「LOST IN CONVERSATION(ロスト・イン・カンヴァセイション)」です。
先に結論から言うと、昨年夏以降に読んだセルパブ本の中ではぶっちぎりで良い作品だと思ったし、これまでのセルパブ本の中でもすごく好み。

王木亡一朗という人物について、リアルで会ったことがないので、イケメンかどうかは分からない。年も離れてはいる。でも、同郷の人間で、同じまち、おそらく同じ風景を見て育った人間ということもあり、作品舞台だけでなく、どこかフレーズだったり表現だったりに「わかる」部分があったりする。
で、作品も全てではないですが、だいたい読んでいるわけです。やっぱり気になるし。
王木さんといえば、自作の表紙やタイトルからほとばしるセンスはひとまず置いておいて、その中身については、意外と堅実な作風というか、そこまで先鋭的な印象はなかったんですよ。今までは。
例えば比較的古い「ブッダブッダブッダ‼︎‼︎‼︎」は、女子高生のバンド活動というテーマで書かれたテンポの良い作品で、クオリティも安定した青春小説でした。しかし、繊細で軽やかな作風とは裏腹に、モチーフや表現の鮮度という点ではやや弱かった。他の作品もそういう傾向があって、私がKDPに参入した頃、王木さんの作風の印象って、私ほどではないにせよ「すごく保守的」だったんですよ。良し悪しの問題ではなく、そういう作品を好む人なのだろうと思ってたんですよ。ぶっちゃけ。
ただ、この2年くらいでどんどん変わってきたんですよね。「ティアドロップ」とか「夏の魔物」の収録作のいくつかからどんどん変化していって、とうとう本作で突き抜けた感じがするんですよね。
そして、王木さんの作品の中でも一際評価の高い(ような気がする)「Our Numbered Days 」で個性を確立して、今回、そこから一足飛びで凄いものが出てきたなと。

で、本作なんですけれど、小学生の仲間たちが、夏休みのある事件をきっかけに大切なものを失うお話。それぞれが大人になってもその喪失感は拭えず、物理的にも精神的にも深い傷として残る中、それでもあがく物語。特に事件の鍵である相沢総一郎を中心に展開していきます。
ノワールっぽい重苦しい世界観もさることながら、複数の時間軸を順を追って、複数の人物から見せるダイナミックな構成がハマった感があります。特に一章から二章への繋がりは見事。個人的にはその二章がすごく好きで、静けさの中に緊張感を保ちつつ、なおかつ章のラストもいい。この部分だけで王木作品の最高傑作だろうと思う。
加えて、とにかく、仕掛けがうまく機能している。人称の使い分けも上手いし、特に一章の執拗な描写もすべて計算づくだと気づいた時には参った、としか言いようがなかったっす。全体を通じて丹念に描かれる喪失感は、エンタメの枠をこえて純文学的な重みがあります。ていうか、エンタメであることに対するこだわりがないのかもしれないな、と思いました。普通に考えればサスペンスやミステリの文脈で語られる物語だし、そこを意識した描写も散見されるんだけど、その割には「ユタカさん」とか、そっち系の描写は抑えめ。サスペンスであれば彼をメインにする方が自然なところを、むしろ、そっちはさらっと流して、メンバーそれぞれの事件後に焦点を当て、心理描写に軸足を置いているのが面白い。結果的に、その微妙な立ち位置がこの作品をオンリーワンにしている感じがする。
世界観が好み、という以上にそのバランス感に驚かされます。

気になるところもないわけじゃなくて、明らかに三章以降は書き急ぎ過ぎだし、ソウイチこと相沢総一郎がものすごく魅力的な一方で、彼以外のキャラクターについてはやや類型的な傾向があったりもする。つまるところ、もっとゆっくりと彼らの再生の物語を紡いだ方が良かった。どう考えても400枚とか500枚で収めていい作品じゃないと思うんです。
要するに、王木作品の中でも荒っぽい面も多いんだけど、それ以上の圧倒的な魅力があるのだと思います。
個人的には、この方向性でもっと突き詰めて欲しい気もする。これだけ重いテーマを軽やかに書き上げるのは、なかなかできないことだし。



とまあ、そんな感じです。長々書きましたが、それだけの作品だということ。
一方で、同郷の物書きとして、めちゃくちゃ悔しかったりもするんですけどね。同じようなアプローチでどうやれば上回れるのか、とかばっかり考えてるという。そもそも、似たようなアイデアがあったとしても、この方向性には進めないでしょうけど。
あんまり悔しくてスルーしたろうかとも思ったんですが、なんか色々と別件でリストアップするにあたり、ちゃんと書き残しておかないといけないだろうなと思い書いた次第であります。
以上。
ラベル:KDP Amazon ミステリ
posted by ヤマダマコト at 22:51| Comment(0) | 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする